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『もう高校はいらない』

『もう高校はいらない』

 

 いざとなると、なかなか踏ん切りをつけることができませんでしたが、それでも高校に行かないという選択肢は、私たちの世代には明確な一つの選択肢として存在していたと思います。なぜかというと、私が高校に入学する直前の春に、TBSテレビで『中卒・東大一直線 もう高校はいらない』というドラマが放映されていたからです。残念ながらすでに亡くなられてしまっていますが、名優の菅原文太氏が主役をされているドラマでした。一言でいえば、中学校での管理教育に反対した一家の、実話に基づくドラマであると言えるのではないかと思います。故菅原文太氏が演ずる親も、自分の息子に制服を着て学校にいくことを強制することもなく、そして息子も中学卒業後、高校に進学せずに当時大学入学資格検定(大検)と言われた検定試験を受けて、東大に合格するという一家のドラマでした。50歳を過ぎたこの歳になって、あのドラマをまた見てみたいとは思うのですが、ドラマの再放送もやっていないようですし、『3年B組金八先生』のようにDVDボックスも手に入らないようなので、とても残念に思います。ドラマの内容もあまりはっきりとは覚えていないのですが、時代劇『水戸黄門』の中の印籠のシーンのように、先生が生徒を黙らせるために「そんなのでいい内申がもらえると思っているのか」と恫喝する場面がなんとなく記憶に残っています(ひょっとしたら、他のドラマの記憶と混ざってしまっているかもしれませんが)。

 

 高校受験をするときに、中学校から提出される内申書の重みは、都道府県によってもバラツキがあったでしょうが、私が住んでいる東京都では、当時、当日の実力試験と同じくらいの重みがあったのではないかと思います。私はクラスのみんなとあまりうまく付き合うことができず、先生ともうまくやれていなかったので、内申書のことは正直諦めていました。なので、公立高校への進学はほとんど考えていませんでした。T高校一択と前の方で述べましたが、内申書の比重の高い公立校への進学は初めから考えていなかったということもありました。でも、生徒にしてみれば、みんな良い高校に進学したいと希望するのは当然だと思います。だから良い内申書が欲しいと望むのは当然だろうと思います。ここに学校・先生と生徒との間に不均衡が入り込む余地が生まれることになります。このドラマでは、良い内申書をもらうためには生徒はおとなしくしていなければならず、学校や先生のいうことには逆らえないといったような、学校教育のアンフェアなシステムについて問題提起されていたのではないかと思います。当時の管理教育のあり方など、教育の矛盾点がドラマのテーマとなっていたと思います。

 

 実際に、私が高校生であった1980年代には、年間10万人以上の中途退学者がおり、高校中退者の増加が社会問題となっていたときでした。小学校や中学校での学校生活にうんざりしていた私には、高校を中退する可能性をおぼろげながらも感じていたのだろうと思います。まさか本当に辞めることになるとは思ってもいなかったとは思いますが、それでも多分自分もやめることになるんだろうなあ、という感覚は高校に進んだはじめからもっていたのだろうと思います。なぜならば、私が通っていた高校が気に入らないだけであれば、他の高校に転校したり編入したりすればいいだけなのだろうと思いますが、当時の私には、他の高校への転校や編入というオプションは、まったく頭にはなかったからです。