コロラドハムシの飼育方法
千葉大にいたときにも、いろいろな昆虫に触れる機会がありましたが、コロラドハムシについては、デラウェアに行くまで見たこともありませんでした。指導教官からジャガイモの栽培方法やコロラドハムシの飼育の仕方についていろいろとアドバイスをもらいながら実際に飼育していきましたが、いかんせん初めての昆虫だったので、戸惑うことも多くありました。トライアル・アンド・エラーを繰り返しつつ、実際に自分で作業しながら、細かいところを調整していきました。やってみると結構気がつきにくいこともたくさんあったので、ここでコロラドハムシの飼育方法について簡単にまとめておきたいと思います。
ガラス室において、鉢に植えたジャガイモの植物体を入れた大型の飼育ケージ(一辺が61 cmで、表面がメッシュ張りの立方体)の中で雄と雌を一緒にして維持しておきますと、コロラドハムシは葉に黄色の卵塊を産みつけていきます。この黄色い卵塊が産みつけられている葉を摘み取るようにして、毎日卵塊を集めていきます。採卵は野外のガラス室で行いましたが、卵から成虫に羽化するまでは実験室の恒温器で飼育しました。ガラス室の飼育ケージから摘み取った卵塊のついた葉から、卵塊以外の余分な葉の部分を取り除き、直径9 cmの濾紙をひいたペトリ皿に入れておきます。私が実際に実験を行なっていたときには、コロラドハムシの卵は乾燥に対してあまり強くないという印象がありました。もちろん恒温器の性能にもよるとは思いますが、卵とともにペトリ皿に入れた濾紙を蒸留水などで湿らせておくと良いと思います。
孵ったばかりの幼虫はとても小さいのですが、これを成虫にまで育てるためには、とても多くのジャガイモの葉が必要になります。幼虫を、17.5 × 12.5 × 6.5 cmのプラスティック容器に新鮮なジャガイモの葉とともに入れておきます。餌が足りないと共食いすることもあるので、できるだけ潤沢に新鮮な葉を与えることが望ましいとは思いますが、なかなか思うようにはいきませんでした。飼育条件にもよるとは思いますが、2〜3週間して十分に成長すると、幼虫がぷっくりとしてくるので、この状態の幼虫を、蛹化および羽化のための別の大きめのプラスティック容器(32.5 × 26.5 × 11.0 cm)に、ジャガイモの葉とともに移します。コロラドハムシは土の中に潜り込んで蛹になることが多いので、このプラスティック容器には土壌を入れておきました。ある程度水分を含ませつつも十分に空気を含ませておくと、とても柔らかい、コロラドハムシにとって潜りやすい土になるので、土を手でよく攪拌しながら水分を含ませていきました。ここらへんは、経験しながら調整していかなければならない領域になると思います。このような状態で、数日から一週間ほどすると、成虫が羽化してきます。成虫が羽化してきているか、毎日プラスティック容器を確認しながら、もし成虫が出てきているようであれば、実体顕微鏡の下で性別を確認し、実験などで必要になるまで雄雌別々の容器で維持しておきました。
このように、採卵してから成虫を得るまでに、もちろん飼育条件にもよるとは思いますが、私の実験条件ではだいたい1ヶ月くらいかかりました。もちろん、1匹だけ得られれば良いというわけではありません。殺虫試験のためには1回の反復で数十の個体が必要ですし、さらに次世代のために集団を選択しなければならなかったりするわけですから、1世代でさえも必要な個体数を得るためには途方もないくらいの新鮮なジャガイモ葉が必要になりますし、何よりも莫大な労力が必要になります。殺虫試験や次世代を築くために必要な個体数を全て得るためには、何もトラブルがない理想的な状態であったとしても3ヶ月ぐらいは必要だったと思います。実際には、様々なトラブルがあり、もっと多くの時間が必要でした。私の修了が延び延びになってしまい、デラウェアに2年以上も滞在することになってしまったのも、このためです。
デラウェア滞在中は困難が付きまとい、系統を維持できなくなりそうなほどの壊滅的な打撃を受けたり、餌となる新鮮なジャガイモ葉がなくなってしまったりといった多くのトラブルに見舞われました。満足のいく条件のもとで実験するなどということは理想に過ぎないということは、これまでの研究人生でも痛いほど味わってきましたが、この時の様々な困難も先行研究を参考にしながら乗り越えてきました。特に、殺虫試験を行う上では、プロビット解析に関する文献として一般的に引用されているFinney(1971)から多くのことを学びました。