デラウェアでの研究

デラウェアでの研究

 

 これまで述べてきたように、アメリカの大学院で、英語のハンディキャップと戦いながら、授業などで一生懸命に勉強をしていましたが、しかしアメリカに渡ってきた一番の目的は、アメリカで新しい殺虫剤抵抗性の研究をするということでした。デラウェア大学で修士号をとるためには、要求されている授業の単位数を取ることも必要でしたが、それとともに修士論文を提出する必要がありました。修士課程での修士論文のための研究のすすめかたは、研究者がアメリカで研究するために踏まなければならないステップを一通り経験させてくれるような、アメリカで研究するための恐らくトレーニングとでもいうべき、実践的なプログラムになっていたのだろうと思います。日本の大学院の場合と恐らく異なるところもあると思いますので、アメリカの大学院で研究を始めるまでのプロセスについて、まず簡単に説明したいと思います。

 

指導教官(アドバイザー)を決める

 デラウェアに到着して、デラウェア大学の大学院を初めて訪ねたときに、大学院の入学に関して日本にいた私といろいろとやり取りをして下さった教授の研究室に顔を出しました。この先生は新たに入学してきた大学院生のアレンジメントを担当されていたようですが、この先生から大学院のことについていろいろと説明やガイダンスを受け、それから指導教官をまず決定しました。殺虫剤抵抗性の研究をしたいという希望を事前に伝えていたはずですので、そのことを考慮してくださったのだろうと思いますが、私はコロラドハムシというジャガイモの大害虫の防除について研究されていた教授の研究室に配属されました。

 

副査(コミッティー・メンバー)を決める

 指導教官から少しずつコロラドハムシについてレクチャーを受けながら、どのようなことを研究したいのかについて相談をしていったと思います。研究したい内容に従い、指導教官からアドバイスを受けながら、その研究内容に適しているのではないかと思われた何人かの先生のところに、修士論文の副査となってくれるようにお願いにうかがいました。私は、殺虫剤抵抗性を量的遺伝学的に分析したいと思っていたので、殺虫剤抵抗性の生理・生化学を専門にしていた昆虫学科の教授と、トウモロコシの品種改良について研究されていた植物関連の他学科の教授に、私の研究の副査となっていただけるようにお願いにうかがいました。以後修士論文が完成するまでに、途中経過や得られている結果を何度か審査会(コミッティー・ミーティング)において報告しました。その都度、指導教官や副査の先生方には私の研究の進捗状況を把握してもらいつつ、いろいろとアドバイスをいただきながら研究を進めていくことになります。ここらへんは、日本の大学院とは大いに異なっているところなのではないかと思います。

 

プロポーザル(研究計画書)を書く

 同じ分野の研究が、現在どのようなところまで進んでいるのか、自分の研究の位置付けを踏まえたうえで、自分が行いたい研究の目的や、実験に必要な材料や用具、実験の手順、データの分析方法などについて、タイム・ラインとともに、ある程度経過の見通しをつけたプロポーザル(実験計画書)を、最初のセメスターをかけてまとめたのではなかったかと思います。このときに、指導教官や副査になってもらった先生方にいろいろとアドバイスをもらいながら、論文や本を読んで関連する分野の勉強を進めていきました。

 

審査会(コミッティー・ミーティング)で承認を得る

 プロポーザルを書き上げたら、それを指導教官と副査からなる審査会に諮り、承認を得ます。そのミーティングの際に、それぞれの先生方からいろいろと突っ込まれることになります。私が書いたプロポーザルはちょっと野心的(アンビシャス)すぎるというご批判をいただいた記憶があります。はじめて書いた研究のプロポーザルなので、あれもこれもと欲張っていたのだろうと思います。これこれの実験をするためには、これくらいの予算や時間がかかるということが、大学院生の自分ではまだわかりませんでした。なので、いろいろな分野の専門家とコンタクトを取りながら研究を進めていくという、いわばアメリカで研究を進めるためのトレーニングになっていたのだろうと思います。

 

必要な材料や機材をそろえる

 プロポーザルの承認を受けたら、実験に必要な材料や機材をそろえていきます。私は、日本から留学してきた、英語もろくにしゃべることができないただの大学院生だったので、ほとんどすべての材料や機材を、指導教官にお願いして集めてもらったと思います。材料となるコロラドハムシは、アメリカのある大学の研究室から送ってもらうように手配してもらいました。コロラドハムシの餌となるジャガイモの種芋も、指導教官に手配してもらいました。コロラドハムシを、鉢に植えた状態のジャガイモの植物体とともに飼育できるだけの大きさを持つ飼育箱(161㎝の、メッシュ張りの木製の立方体)を、指導教官にお願いして3個も作ってもらいました。実際には、先生の助手をしていた学生がハンドメイドで作ってくれたのですが、とても素晴らしい出来だったので、すごいなあと驚いた記憶があります。あと、ジャガイモを育てるための温室の場所や水やりについて取り決めなければならなかったり、コロラドハムシを維持するためのインキュベーター(恒温器)を使わせてもらったりと、いろいろとお世話になりました。