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筑波大学での研究(1)

筑波大学での研究

 

 デラウェアでは、殺虫剤抵抗性を量的遺伝学的に解析することを試みてきました。殺虫剤抵抗性の研究者は、抵抗性を研究するときに、まず一番初歩的なステップとして、殺虫試験から得られた死亡データのプロビット解析を一般的に行っていると思います。実際、学部の学生実験でも行われているほど、プロビット解析は基礎的な方法なのだろうと思います。デラウェアでは、そのプロビット解析の背後に横たわっている殺虫剤感受性の正規分布と、平均値としてのLD50値(集団の半数を死亡させる薬量)に注目することによって、殺虫剤抵抗性についても、家畜や栽培植物と同じように量的遺伝学を用いて解析することができる可能性を、コロラドハムシというとても手間のかかる昆虫を用いて検討したのでした。苦労がいろいろとありましたが、一応論文にまとめることができたので、私の中では満足しています。

 

 殺虫剤抵抗性の研究分野において、これまで量的遺伝学的解析の手法が広まっていなかった理由の一つに、殺虫剤抵抗性を量的に解析することと、これまでにいろいろとわかってきた抵抗性をひきおこすメカニズムとそれを支配している遺伝子を解析することとのつながりが見えていないことがあるのではないかと思います。つまり、殺虫剤抵抗性は、遺伝学的な背景がはっきりとわからなくても、例えば殺虫試験の結果に基づいて得られた平均値と分散を用いて、量的遺伝学的に解析することは可能だったわけですが、その一方で、分子遺伝学的な手法が発達したことによって、抵抗性を支配している遺伝子についても、いろいろなことがわかってきています。この殺虫剤抵抗性という表現型と、これまでにいろいろとわかりつつある抵抗性のメカニズムとそれを支配している遺伝子との繋がりはいったいどうなっているのか? ショウジョウバエを用いた殺虫剤抵抗性の研究は古い歴史がありますが、この点についてはこれまで論争があったところだと思いますし、まだ多くの誤解が残されていると思います。なので、ショウジョウバエ研究者にとっては、殺虫剤抵抗性なんて古典的な、地味なテーマであるように見えたかもしれませんが、筑波大学での研究は、殺虫剤抵抗性の概念にもつながる、とても野心的な研究であったと私自身は思っています。

 

 デラウェアでコロラドハムシを用いて殺虫剤抵抗性を量的遺伝学的に解析してきた自分は、筑波において、より飼育しやすく、遺伝学的にも詳細に調べることができるキイロショウジョウバエを用いて殺虫剤抵抗性を研究するというアドバンテージを活かし、殺虫剤に対する抵抗性という表現型とその遺伝子とのつながりに焦点を当てることになりました。これまでは殺虫剤抵抗性という表現型に焦点を置いてきましたが、筑波ではさらに、その遺伝的背景にも焦点を置くということになります。なので、それなりの研究手法が必要になってきますが、私はこれまで農学や昆虫学の領域で研究してきました。純粋なドロソフィリスト(ショウジョウバエ研究者)ではなかったので、筑波大学の指導教官からこのときにいろいろな遺伝学的手法を教えていただくことになりました。遺伝学の発達をもたらしてきた昆虫だけに、さまざまな研究手法があります。私の研究の中で実際に用いたそのうちのいくつかをここで簡単に述べておきたいと思います。