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遺伝的変異の季節的変動 投稿論文の要旨

投稿論文の要旨

 ここまでの結果は、筑波大学博士課程の主に前期2年間でおこなった採集や実験に基づくものでした。私もすでに30歳かそこらになっていたので、他の同じ年代の研究者のように、研究の結果については論文として発表していかなければならないと考えていたので、実験をやりながら、それと並行してデータをまとめたり、論文の原稿を書いたりしていました。これまでは、感受性の回復という現象が観察されたとしても、感受性個体の混入という可能性を厳密に排除することは困難でした。なぜならば、昆虫飼育室において他の系統と一緒に飼育されていた1つのマス集団において観察された現象が多かったためだろうと思います。しかし私たちは、感受性の回復を、1集団当たり40から2861雌由来系統の死亡率の平均値において観察していました。つまり、感受性を示す1雌由来系統の頻度が、秋に採集された勝沼の自然集団において上昇したことを意味するので、感受性の回復を実験室における感受性個体の混入であると考えることには無理があります。このように、感受性の回復という現象を、実験室のマス集団ではなく、野外のキイロショウジョウバエ集団から作製した1雌由来系統を用いたアプローチで観察することができたことに、私自身とても意義を感じましたし、とても興味を覚えました。ここで述べた結果について発表した論文の要旨は以下の通りです。原文は英文ですが、和訳してあります。

 

キイロショウジョウバエ自然集団における殺虫剤に対する感受性の季節的変動:殺虫剤抵抗性の適応度コストの経験的観察

 

Takahiro Miyo, Sumio Akai, and Yuzuru Oguma

Genes & Genetic Systems (2000) 75(2): 97-104.

 

要旨

殺虫剤に対する感受性の遺伝的変異と季節的変動を調べるために、キイロショウジョウバエ自然集団を、2年間連続して真夏と晩秋に勝沼から採集した。それぞれの季節において採集されたそれぞれの集団の1雌由来系統を実験室で確立したのち、パーメスリン、マラチオン、プロチオフォス、フェニトロチオン、DDTを含む5つの殺虫剤に対するそれぞれの系統の感受性を検定した。それぞれの集団の系統は、すべての殺虫剤に対する感受性に、幅の広い変異を示した。異なる季節の集団間での比較は、有機リン剤に対する感受性の遺伝的変異が集団の大きさとともに一貫して変動し、感受性が秋に増大することを示した。加えて、有機リン剤に対する反応の間に、高度に有意な相関が観察され、その相関は季節とともに変動した。一方、パーメスリンやDDTに対する感受性の遺伝的変異は、あまり変動しなかった。これらの結果は、有機リン剤抵抗性に共通の抵抗性因子だけでなく、それぞれの殺虫剤についての異なる抵抗性因子が自然集団に含まれていること、そして、有機リン剤に対する感受性において観察された変動は、有機リン剤抵抗性因子の適応度コストと結びついている可能性を示唆している。

 

 勝沼のキイロショウジョウバエ自然集団における観察から導かれたこれらの仮説について、以後さらに実験を行っていきました。