エジンバラという街
スコットランドといえば、スコッチ・ウィスキーとタータン・チェックのキルト(巻きスカート)やバッグ・パイプなどを思い浮かべるのではないでしょうか。イギリス自体がとても伝統や格式が感じられる国なのだろうと思いますが、そのなかでもスコットランドは、タータンのキルトやバッグ・パイプなどといった独特な文化の印象が強いので、さらに伝統や格式を感じてしまうのだろうと思います。エジンバラは、そのようなスコットランドの首都なので、大都会には違いないのですが、街の真ん中にはエジンバラ城がそびえ、夏になると、エジンバラ城でミリタリー・タットゥー(バッグ・パイプとドラムの楽団の伝統的なショー)が毎日のように開かれているので、日々の生活のなかにも、スコットランドの伝統が至る所に感じられるような街でした。
私はトータルすると3年半の間、エジンバラに滞在していたことになります。最初の1年間は、街の中心部からは少し外れていましたが、学校から比較的近いところに住んでいました。小さな古いお城のような集合住宅(日本のマンションに近い感じ)の中の1部屋を借りて(間借りして)いました。同じ住宅にスコットランド人も間借りしていたのですが、ほとんど顔をあわせることはありませんでした。2年目からの1年間は、間借りではなく、集合住宅をそのまま借りることになりましたが、家具や食器などはすべて備え付けられていたので、とても助かりました。イギリスでは、集合住宅から一戸建てに引っ越すときに、荷物を持っていくのではなく、そのまま置いておいて、家具一式備え付けの貸家として賃貸していることが多いそうです。日本ではちょっと考えられませんが、私のような海外からの独り者にとっては、とてもありがたいシステムだと思いました。3年目からの1年半は、街の中心部に引っ越すことになりました。裏の窓から見上げるとエジンバラ城がみえるような、エジンバラ城のすぐ裏手にある集合住宅でした。ただこのときは家具などが一切なかったので、自分で揃えなければならなかったのですが、男の一人暮らしですし、学校から寝に帰るだけだと思っていたので、安いビーチ・マットのようなポンプ式のマットを買ってきて、最小限の必需品しか揃えずに、暮らしていました。このマットも、じきに穴が開いてしまって、空気を入れてもすぐにしぼんでしまうようになってしまいました。要するに、ただのビニール・シートになってしまったわけです。1つは、快適なベッドに寝てしまうと、朝起きられなくなると思っていたことと、2つ目には、千葉大学の1、2年生の時に住んでいた風呂無し、便所共同の4畳半のアパートの経験があったので、それに比べたら、シャワーやガスコンロがついているだけいいと思ったこともあったので、このような生活でも満足していました。イギリスのロンドンで見かけるような2階建てバスがエジンバラの街にも走っているので、たまにこの2階建てのバスに乗ることがありましたが、30分ぐらいかけて毎日のように学校まで歩いて通っていました。
筑波大学大学院在学中もとても忙しかったと思いますが、今から思い返してみると、エジンバラでは、精神的にも肉体的にも、筑波にいたときよりも忙しかったと思います。いろいろなことがどっと押し寄せてくるような感じがして、余裕があまりなかったように思います。夜7時を過ぎ、他に誰もいなくなってしまった実験室で、一人で明日の実験の準備をしているときには、自分はどうなってしまうのだろうと思いながら、作業をしていました。学校の帰りも空腹のためにフラフラになってしまい、空腹を我慢できなくて、途中でフィッシュ・アンド・チップスのスタンドにより、ソーセージを揚げたものを手で受け取って、そのまま食べながら、アパートまで帰ったものです。金曜日の夜に食べるフィッシュ・アンド・チップスがごちそうでした。モルト・ビネガーをたっぷりとかけて、ブラウン・ソースをたっぷりとぶちまけたやつが好きでした。日本で食べることができるフィッシュ・アンド・チップスは高価であり、お上品な物ばかりのような気がしますが、エジンバラで食べた、ビネガーとブラウン・ソースをたっぷりとかけた、ちょっとジャンキーなフィッシュ・アンド・チップスが今でも無性に食べたくなります。アパートと学校を往復することばかりだったので、エジンバラの街について思い出すことといえば、このフィッシュ・アンド・チップスのことぐらいなのですが、私にとっては大切な、かけがえのない思い出なのだろうと思います。
ソールズベリー・クラッグス(エジンバラにある丘)から大学の建物方面を臨んだ景色。緑がとても美しい景色だと思います。
同じく、丘の上から街の方角を臨んだ景色。伝統と格式が感じられた、趣がある街だと思います。
2年目から1年間お世話になったフラット(日本のアパートのような感じ)。ほとんどの必需品が備え付けられていたので、ほとんど何も揃える必要はありませんでした。海外からの独り者には、とてもありがたかったです。 三代