内的自然増加率
イギリスの研究文化
勝沼の自然集団では、秋に有機リン剤に対する感受性が上昇するという現象を2年間にわたり観察してきました。勝沼では、ワインの製造過程でブドウの搾りかすが廃棄される秋にショウジョウバエが大集団を形成するという知見や、私たちが実際に採集を行った時の経験に基づいて、殺虫剤抵抗性遺伝子は集団の増加過程において不利である、あるいは有害であるために、集団が増大する秋に集団内における相対的頻度が減少し、その結果集団の感受性が増大するという仮説をたて、有機リン剤に対する抵抗性と集団の増加過程において重要な要素と考えられた産仔生産力の染色体分析を行ったのでした。これらの実験や分析は、筑波の大学院のかなり後半で行っていたため、残念ながら、そこからさらに発展させるだけの時間的余裕がなく、集団内における殺虫剤抵抗性の遺伝的変異のダイナミクスという、私の興味の核心にある領域には、あまり踏み込むことができませんでした。産仔生産力に関する染色体分析の実験を行っていた際に、産仔生産力のデータとともに、成虫の生存データについてもデータを記録していたので、それらをうまく組み合わせることによって、集団における遺伝的変異のダイナミクスを検討する集団モデルを構築することが可能になるのではないかと考え、筑波大学卒業後も、集団の増加過程について勉強してきたのですが、エジンバラ大学の先生は、まさにその分野の世界的な権威であったので、昼間は老化の進化の研究でショウジョウバエの死体を拾い集めてカウントしながら、それとともに、集団の増加過程に関する研究へのアプローチの仕方について、いろいろとご示唆を受けながら、研究を進めていきました。
みなさんは、勉強しているときにわからないことがあると、どうするのでしょうか? 私も一応筑波大学で博士号を取得し、研究員としての武者修行のためにエジンバラ大学にお邪魔していたわけです。なので、わからないからといって、先生に教えを乞うということはほとんどなかったと思いますし、聞いたところで、先生も教えてはくれなかっただろうと思います。私がある程度こういうことがやりたいということや、こういうことに興味があって、こういうことを実際にやってみたということを先生にお話しすると、“じゃあ、次にこれをこうしてみなさい”、と言ってくださったり、“わからなかったら、この本を読んで自分で勉強してみなさい”というように、本を貸してくださったり、本当に的確な示唆を与えてくれたのでした。私自身興味があることだったので、夢中になって勉強し、本を読んだり、コンピューターに向き合ったりしていました。それまでは殺虫剤抵抗性という1つの領域のなかで研究してきましたが、さらに大きな領域のなかで見聞を広げることができ、とても刺激的な、充実した時間を過ごすことができたのではないかと思います。
塾で教えていた時に、たびたび感じたのですが、今の中学生や高校生は、恐らく忙しすぎるのだろうと思います。もちろん受験勉強のために、膨大な範囲の勉強をしなければならないでしょうし、学校でも部活動があり、友達付合いがあって、さらには、スマホやコンピューター・ゲームで遊んでいたら、本当に忙しくて時間がないだろうと思います。でも、エジンバラで体験したような、自分自身で勉強している中で、わからないなりに夢中になって試行錯誤し、あっという間に朝になって、一睡もできなかったというような、そんな充実した時間を体験させてあげたいなあといつも思っていました。でも、塾で教えている時も、これじゃあ忙しすぎるよね、と残念に思っていました。時間的に余裕がなければできないことなので、ある意味で贅沢なことだったのかもしれないのですが、それでも、ゆっくりと考える時間のない今の子供たちは、ちょっとかわいそうだなあといつも思っています。