投稿論文の要旨
ここでもう一点、注意していただきたいことがあります。私がこの研究において採用した、抵抗性と感受性の遺伝子型のデータは、3つの有機リン剤に対する抵抗性の効果が検出された、抵抗性系統の第3染色体を保有し、他の染色体については感受性の系統に由来する抵抗性型の染色体置換系統と、すべての染色体を感受性系統に由来する感受性型の染色体置換系統のデータを用いているということです。よって、抵抗性の遺伝子型と感受性の遺伝子型の間にみられた遺伝的な相違は、すべて第3染色体の相違に帰属させることができることになります。実際に、抵抗性系統#609の第2染色体には、抵抗性とは関係がない有害な遺伝的変異が検出されていましたが、そのような、抵抗性には関与していない染色体上の有害な遺伝的変異の影響は排除できていることになります。すなわち、抵抗性には関与していない染色体については、系統間で条件を同じにした状態で系統間の適応度を比較していることになります。私たちの研究のように、遺伝的なバックグラウンドを揃えて抵抗性系統、感受性系統間の適応度を比較している研究はあまり多くはないので、他の抵抗性研究よりも優れているとまでは言えないまでも、少なくとも、他と研究と同等レベル以上の結果であると思っています。
一度はこっぴどくはねつけられてしまいましたが、なんとか受理までこぎ着けた論文の要旨を以下に掲げておきました。原文は英文ですが、和訳しています。
キイロショウジョウバエ自然集団における殺虫剤に対する感受性の季節的変動 II. キイロショウジョウバエ自然集団における有機リン剤に対する感受性の遺伝的変異の特性
Takahiro Miyo, Yuzuru Oguma, and Brian Charlesworth
Genes & Genetic Systems (2006) 81(4): 273-285.
要旨
キイロショウジョウバエ自然集団における有機リン剤に対する感受性の遺伝的変異を明らかにするために、我々は、以前の研究で用いた1雌由来系統(10〜286系統)の死亡率データのセットについて、分散分析を行った。3つの有機リン剤に対する1雌由来系統の感受性は、それぞれの自然集団内で、感受性から抵抗性まで連続的に分布していた。分散分析は、それぞれの自然集団について、それぞれの殺虫剤に対する感受性に、1雌由来系統の間で高度に有意な変異を明らかにした。勝沼集団については、3つの殺虫剤に対する感受性における有意な遺伝的分散が推定された。マラチオンについては0.0529-0.2722、プロチオフォスについては0.0492-0.1603、フェニトロチオンについては0.0469-0.1696であった。以前の研究で報告した、秋に平均感受性が増加する一貫した季節的傾向とは対照的に、3つの有機リン剤に対する感受性の遺伝的分散は、1997年には有意に変化しなかったが、1998年には2〜5倍増加する傾向を示した。我々は、有機リン剤抵抗性における遺伝的分散の維持と増加という観察された両方の状況が、3つの有機リン剤に対する抵抗性レベルが減少する傾向にある状況のもとで生み出すことができるかどうかを、シミュレーション分析を行うことによって検討した。この分析は、抵抗性の遺伝子型は密度非依存的な条件のもとで、感受性のものよりも低い適応度を持っているという仮説に基づいている。このシミュレーション分析は、一般に、キイロショウジョウバエ勝沼集団において観察された3つの有機リン剤に対する感受性の平均感受性と遺伝的分散のパターンを説明した。夏集団における抵抗性遺伝子の頻度における相違が、秋集団における有機リン剤抵抗性の遺伝的分散のパターンに影響を与えうることが示唆された。
KEY WORDS: 密度非依存性、キイロショウジョウバエ、遺伝的変異、殺虫剤抵抗性、自然集団