オークニー・シェトランド諸島
ローカル列車でエジンバラ近郊の街まで出かけてブラブラ散策したことや、イングランドの街で開催された学会などで何度かイギリス国内を長距離移動したことはありましたが、純粋にイギリスの国内を旅行したのは、このときが初めてでした。私が一週間かけて旅行した北部の諸島部は、オークニー諸島と、さらにその北のシェトランド諸島です。最初にスコットランドにやってきた時から、スコットランドの北、特にハイランドといわれているところや、さらに北の諸島部で見つかっていた古代の遺跡を訪れてみたいと思っていました。エジンバラ滞在期間中は、エジンバラからほとんど動けませんでしたが、スコットランドに滞在できる時間もあとわずかということで、思い出にぜひ旅してみたかったのです。
エジンバラから列車に乗って、アバディーンというスコットランド北部にある、スコットランド有数の大都市まで行き、そこからフェリーにのって、まずブリテン島のすぐ北にあるオークニー諸島のなかのカークウォールという町まで行きました。夜間にフェリーに乗ったのですが、私は当時タバコを吸っていて、タバコを吸うときには船外に出なければなりませんでした。真っ暗闇のなか、波に揺れながら、遠くの方で陸地(?)の光がわずかにきらめいていた光景をとてもよく覚えています。自分が陸地からかなり離れた海上にいることが改めて感じられ、真っ暗闇のなか、かえって恐怖心があおられたのではないかと思います。フェリーで旅行などしたことはなかったので、とても楽しみにしていたのは事実でしたが、正直、こんなところで沈没されたらやだなあと不安になっていました。
私がオークニー諸島を旅していた時は、ちょうどトリノ・オリンピックが開催されていた時だったと記憶しています。日本人選手たちは頑張っていたのでしょうが、なかなかメダルまで届かないということが続いていました。そんなフラストレーションがたまるような中、フィギュアスケートで、日本人選手が堂々とした演技で、日本人唯一の金メダルを獲得したシーンを、オークニーの宿舎でテレビを通して観戦していたことを記憶しています。はじめて本格的にスコットランドを旅行できるということでワクワクしていましたが、その一方で、地球のかなり北に位置する、見ず知らずの土地をこれから巡るという不安も正直なところあったので、日本人選手の活躍に勇気づけられたような思いがありました。
オークニー・シェトランドの島々には多くの古代遺跡が残されています。古代人が残したストーン・サークルや住居遺跡、日本の古墳のような古代人の墓所、さらには、廃墟と化した中世の住居跡や教会建築などのような見どころがたくさんありました。そしてなによりも、波が打ち寄せる切り立った岸壁や、シェトランド・ポニーが群れた草原など、素朴ではあるけれども、自然の厳しさをまざまざと見せつけられるような、とてもダイナミックな世界を見せてくれたと思います。日本にいるときには、北海道さえも行ったことがない自分が、イギリス・ブリテン島のさらに北の方にやってきて旅をしていることが不思議でした。東京のような都市で生活してきた私が、この旅行のなかで経験したことで心に残っていることは、海沿いに立っていたストーン・サークルの静けさ、雨が降る中、傘もなくずぶ濡れになりながら歩いていた中で目にした、雲の切れ目から向こうの牧場に差し込んできた太陽の光の荘厳な美しさ、そして、シェトランド・ポニーが草を食んでいた脇を通り抜けて、丘を越えた瞬間に風の音が突然途切れたような、まったくの静粛を感じた瞬間、などです。オークニーやシェトランドのような、こんな遠く離れたところにまで、太古の人々が移り住んできていたことが驚きでした。波の音を聞きながら、ストーン・サークルの脇に座っていると、大昔の人はどんな思いを抱きながらここに座っていたのかと考えてしまいました。やっぱり、寂しかったのかなあとも思いますし、誰か来ないかなあと思いながら海のほうをずっと眺めていたのではないかと思います。ちょっと寂しくなりましたが、でも、とてもゆっくりとした、穏やかな時間を過ごすことができた、思い出に残る旅行になりました。
シェトランドでは、かなり北に来ていたので、オーロラが見られることを期待していましたが、残念ながらみることはできませんでした。旅行していた時期は2月の中旬でしたが、少し時期が悪かったようです。今、夜空を眺めることがたびたびありますが、私の目が悪いこともさることながら、街の明かりや街灯の明かり、湿気の多い曇った大気に邪魔されて、あまりきれいな星空を眺めることはできません。今から振り返ってみれば、オークニー・シェトランドではさぞかしきれいな星空が眺められただろうと思うのですが、旅行中に眺めた星空については、残念ながらほとんど記憶がありません。当時は、あまり星空には興味がなかったのですが、とても貴重なチャンスを逃してしまい、いまさらながら残念に思っています。
雨の中をずぶ濡れになりながら歩いていたときに、雲の切れ目から突然射し込んできた陽の光の荘厳な美しさに感動しました。オークニー諸島を旅していた時に撮影した写真です。
オークニーやシェトランド諸島には、いたるところに古代遺跡が残されています。スコットランドに来た時からこれらの遺跡を訪れてみたかったので、念願をかなえることができてよかったです。
シェトランド・ポニーが群れている中を歩いていたことがあります。メスのポニーの傍を通りかかったら、オスのポニーに長いタテガミの下から睨まれていました。もうちょっとモタモタしていたら、オスのポニーに突進されていたかもしれません。
とても穏やかな風景の中で、風の音に耳を澄ませる、そんなとてものんびりとした旅をすることができました。 三代