第3染色体上の抵抗性遺伝子:抵抗性型アセチルコリンエステラーゼ(1)アセチルコリンエステラーゼ研究

3染色体上の抵抗性遺伝子:抵抗性型アセチルコリンエステラーゼ

 

アセチルコリンエステラーゼ研究

 アセチルコリンエステラーゼは、神経細胞における興奮伝達において重要な役割を果たしている酵素分子です。神経細胞の軸索を伝導してきた興奮が軸索の末端に達すると、次の神経細胞との接続部位にあたるシナプスといわれるところで、神経細胞間の隙間(シナプス間隙)にアセチルコリンという神経伝達物質が放出され、化学的に次の細胞へと興奮が伝達されることになります。アセチルコリンエステラーゼは、この神経伝達物質であるアセチルコリンを速やかに分解する役割を果たしているため、有機リン剤がこのアセチルコリンエステラーゼにほぼ不可逆的にくっついてしまうと、神経細胞間の興奮の伝達が阻害され、そのような昆虫個体は最終的に死亡してしまうことになるため、有機リン剤の殺虫剤としての効果が発揮されるということになります。一般的なアセチルコリンエステラーゼを持っている、有機リン剤に対して感受性の個体の場合、このように有機リン剤がアセチルコリンエステラーゼにほぼ不可逆的に結合してしまうことになるため、アセチルコリンの分解活性が阻害され、やがて死に至ることになりますが、アセチルコリンエステラーゼのアミノ酸配列を変えるような点突然変異がおこると、有機リン剤がこの酵素に、より結合しにくくなる場合があるため、感受性の個体であれば死亡してしまうような殺虫剤濃度の下でも、そのような点突然変異を保有している個体は生存できることになり、有機リン剤に対して抵抗性をしめすということになります。

 

 アセチルコリンエステラーゼは有機リン系の殺虫剤の作用点であり、抵抗性型に変異したアセチルコリンエステラーゼは、有機リン剤抵抗性のメカニズムとしては、かなりメジャーなものであるという印象があります。なので、アセチルコリンエステラーゼの研究は、抵抗性のメカニズムに関する研究の中でも相対的に長い歴史を持っているのではないかと思います。キイロショウジョウバエのアセチルコリンエステラーゼについては、フランスの研究者が研究をリードしてきており、1980年代後半にはキイロショウジョウバエのアセチルコリンエステラーゼの塩基配列が決定され(Fournier et al., 1989)、さらに1990年代には、アセチルコリンエステラーゼを抵抗性型に変えるようなアミノ酸置換についても、いくつか明らかにされていました(Mutero et al., 1994)。