ドイツ・ミュンヘン
トゥールーズからパリに到着したときには、すっかり夜が更けてしまっていました。成田を発ってからパリに夜到着して、そのまま早朝に長距離列車に乗ってトゥールーズに向かい、その日のうちに、またパリまで戻ってきたことになります。フランスでは、ぜひフレンチの家庭料理でも食べてみようと、日本にいるときに、ガイドブックでいろいろと調べてきたのですが、パリの駅に着いた時には空腹だったにもかかわらず(朝起きてからこの時まで何も食べることができなかったと思います)、疲れ果てていて、あまり食欲もありませんでした。駅のファースト・フード店でサラダか何か、軽く食べた記憶があります。フレンチ料理を食べられるような食欲はありませんでした。クタクタになって宿に戻り、すぐに眠ってしまったと思います。しかしながら、ゆっくりと眠っていられるはずもなく、早朝に起床したら、そのままドイツに向かって出発しなければなりませんでした。せっかくフランスはパリに来ているので、できればお洒落なカフェーで、ボウルに入ったカフェオレを飲みながらゆっくりとしたかったのですが、そんな余裕はありませんでした。早朝の、テーブルに椅子を載せて床の掃除をしているような、お洒落感のまったくないカフェーに入って、辛うじて、朝食代わりにチュロスか何かを食べながら、カフェオレをいただいた記憶があります。なんだかとても慌ただしかったように記憶しています。
ドイツもまた、フランスやパリの街並みとは異なる雰囲気がありました。ミュンヘンの空港から町までは、ローカルな、トロ―リー電車のような乗り物に乗ってたどり着くことができたと記憶しています。電車の窓から見えた樹林の緑が印象に残っています。なんだか、とても落ち着いた雰囲気があったように記憶しています。うまくいけば、このミュンヘンの街で研究生活を送れるかもしれないという期待があったので、正直とても楽しみにしていました。
ミュンヘンの大学にある先生のオフィスを訪問することになっていました。ガイドブックに載っていた校舎に行こうとしたのですが、大学の校舎がいくつかあったようで、別の校舎だったか、あるいは新しく移転してしまっていたのか、ちょっとよくわからないのですが、先生がおられる校舎は、ガイドブックに載っている住所とは異なるところにあることがわかりました。あわてて通りを歩いていた見知らぬ人に行き方を尋ねたところ、どうやら私は、ミュンヘンの地下鉄に乗って、路線の反対方向に来てしまっていたようでした。改めて地下鉄を乗り継いで、なんとか先生がいるオフィスまでたどり着くことができました。時間に余裕をもって訪問したつもりだったのですが、駅を降りてから学校まで、さんざん道に迷ってしまいました。確か、地図も持っていなかったような気もするのですが、それでも奇跡的に先生のオフィスまで、時間通りにたどり着くことができました。フランスのときといい、ドイツのときといい、今回の旅では、本当によく先生方のオフィスまでたどり着くことができたと思います。日本国内ならいざ知らず、今まで行ったこともない外国の土地で、しかもあまり余裕はありませんでしたが、約束されていた時間に間に合うことができたなんて、実際にその場にいて行動しなければならなかった身としては、1つでも間違えたら面会も実現しなかったのではないかと思うような、ちょっと信じられないような際どさを感じました。なんだか、多くの幸運に支えられていたように思います。
ミュンヘンにある大学のオフィスで、私がこれまでに筑波で行ってきた、主にアセチルコリンエステラーゼの遺伝学的な研究の結果について先生に説明するとともに、フェローシップに応募するためにどのような研究を行いたいのかをお伝えし、フェローシップ応募のためのプロポーザルとしてどのようなことを書いていけばいいのかといったことについて、いろいろとご示唆をいただきました。当時、先生の研究室で研究員をされていた何人かの研究者に紹介してくださるとともに、例えば、抵抗性遺伝子に存在している変異に対して、殺虫剤によるポジティブな選択圧と、集団の増加過程や生態学的な環境下のもとではたらくネガティブな自然選択圧がほぼ同時にはたらいたときに、DNAの塩基配列に存在する変異のパターンに対してどのような影響がみられるのかといったことについて、参考になるような論文をいくつか教えていただきながら、研究の方向性についていろいろと示唆をいただいたと思います。多分新築されたばかりで、とても新しいきれいな校舎がとても印象に残りました。こんなところで研究できたらいいだろうなあと、素直に感じた記憶があります。
アセチルコリンエステラーゼをはじめとする抵抗性遺伝子の塩基配列を解析していき、それによって明らかにされたDNAの変異のパターンから、野外における殺虫剤による選択圧と、それと同時に集団の増加過程や野外での環境条件の下ではたらいている自然選択圧の影響についての洞察を得ていくことを目的とする研究は、私自身大変興味がある問題でしたし、研究するだけの意義も大いにあっただろうと思います。しかしながら、先ほども触れましたように、残念ながらフェロ―シップを取ることはできませんでした。筑波大学でお世話になっていた指導教官が定年で退官され、私も実家に戻って応募していたフェローシップの結果を待っていた間、もうすでにアクセプトされたつもりで、一生懸命にドイツ語の勉強をしていました。せめて日常の会話ぐらいはと思って、語学が苦手な私にしては一生懸命に勉強していたつもりだったのですが、結局却下されてしまい、しばらくショックで立ち直れませんでした。結局、このとき提出した研究計画を実行することができず今日まで来てしまいました。いろいろとご示唆をいただき、ミュンヘンでお時間を頂戴した先生方には大変申し訳なく思うとともに、私自身研究を進めることができずとても残念ではありますが、これも私の力が足りなかったためなのだろうと思います。