ドナウ川計画
研究のためとはいえ、せっかくヨーロッパを訪れているので、一日ぐらい余裕をもってどこかをブラブラとしたいと思っていました。ドイツのミュンヘンから日帰りできるくらいのところで、どこか良いところを旅してみたいと思い、ミュンヘンからドナウ川のほとりまで足を伸ばしてみることにしました。はっきりとしたことはもう覚えていないのですが、ガイドブックをいろいろと調べてみて、ドナウ川に沿った崖に建つ教会を訪れてみたかったと記憶しています。イギリスに滞在していた時も、エジンバラにある教会の建築美に魅かれるものがありましたし、今回ミュンヘンに滞在している間に、ミュンヘンでも有名なタマネギ型の丸屋根を持つ2つの塔がある大きな教会を訪れて、とても印象に残っていたので、ドナウ川沿いにひっそりと建つ教会を訪れてみたかったのだろうと思います。
当日、駅まで行くと、人だかりができていて、どうも様子が変でした。予約していた列車のチケットを得ようと窓口に並んでみたのですが、どうやら嵐が近づいてきていて、列車のダイヤが大いに乱れているとのことでした。ずいぶんと並んでいたと思いますが、やっと窓口まで到達したら英語は通じないことが判明し、英語が通じる窓口に並びなおさなければなりませんでした。ヨーロッパ連合(EU)ができ、ユーロという共通の通貨を持ってフランスやドイツを回ってきましたが、言語までは統一されていないことに、改めて気付かされました。恐らく、窓口の職員も英語は理解していたでしょうし、日常の会話くらいはできる人がほとんどだと思うのですが、窓口の人の対応から受けた印象としては、問答無用で英語を却下されたので、英語が自由に通じるという印象はなく、むしろ、ドイツ人の言語に対するこだわりはとても強いのではないかという印象を受けました。私自身の中に、ヨーロッパ連合に対する勝手な思い込みがあったと思います。
それでも、なんとか切符を買って列車に乗り込んだのですが、各駅停車のように鈍行で、なかなか先に進めませんでした。結局、乗っていた列車も途中からミュンヘンに引き返すことになり、残念ではありましたが、ドナウ川まで遠征するという計画を断念せざるを得ませんでした。確かに天気はあまりよくはなく、断続的に雨が降ることはありましたが、それほど荒れているという印象はなかったので、内心は不満タラタラでした。でも、日本に帰ってから知ったところによれば、ヨーロッパに記録的な嵐が近づいていたそうで、被害も甚大だったそうです。正直なところ、いったい何なのだとその時には憤ったのですが、でも無理にドナウ川遠征を強行しなくてよかったのかもしれません。嵐が近づいていたのですから、運が悪かったとしか言いようがありません。
結局、フランスはパリに2泊、ドイツはミュンヘンに3泊したことになりますが、研究について著名な先生方と面会し、いろいろとご示唆をいただくことができ、大変有意義ではありましたが、とてもタイトな日程であり、大変くたびれてしまったと思います。最終日に多少ゆとりを持ったつもりだったのですが、嵐のために台無しになってしまい、せっかくの機会を活かすことができませんでした。イギリスには3年半滞在していましたが、ヨーロッパ大陸の国々は初めてだったので、とても楽しみにしていたのですが、パリの記憶は夜間の光景しかないわけですし、嵐のためにドナウ川を旅することもできなかったので、とても惜しかったなあと思います。それでも、キイロショウジョウバエのアセチルコリンエステラーゼ研究の第一人者であるフランスの先生からは、直筆のサイン入りの論文をたくさん頂戴することができ、とても光栄に感じますとともに、とても有意義な訪問となりました。しかし、フランス、ドイツの著名な先生方からいろいろとご示唆をいただいておきながら、結局フェローシップを取ることができず、研究を進めることができませんでした。大変申し訳なく思うとともに、自分の力のなさを痛感するところです。