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筑波から実家へ(2)実家でショウジョウバエを飼育

実家でショウジョウバエを飼育

 東京の実家から、電車やバスで筑波まで通うと、一回の往復で数千円かかってしまっていました。3月いっぱいで筑波での研究員としての契約が切れることになりますが、そうなれば当然、次のポジションが決まるまでは無職となってしまいます。ショウジョウバエの系統を維持するために、このまま筑波大学の研究室に系統を置かせていただけるようにお願いすれば、次のポジションが決まるまでの間、恐らくそのまま飼育室などを使わせていただけるだろうとは思ったのですが、これまでのように、例えば系統の維持や餌作りのために、毎回数千円かけて筑波に通うのも、無職の身には大変な負担となってしまうと思ったので、3月いっぱいで筑波からは完全に引き払うことにし、これまで私の研究で使ってきたキイロショウジョウバエの系統も、次のポジションが決まるまでは実家で飼育してみることにしました。ショウジョウバエを飼育するための飼育ビンや餌の原材料も、筑波でお世話になっていた研究室から頂戴させていただき、自分の家族からは、実家の一部屋をショウジョウバエ用の飼育室として使わせてもらう許可を得ました。もちろん、大学の実験室のように、常時空調の設備もなく、照明施設もありません。春先はまだ温度の変化も穏やかだったので、軽く暖房をつければ、ある程度一定に室温を維持することは容易だったのですが、次のポジションがなかなか決まらなかったこともあり、夏場を迎えるころには、絶えず冷房が必要になるなど、苦労が続き、心が休まることはありませんでした。冷房を絶えず使うことになったため、電気代も通常の倍近くになってしまっていました。

 

 もちろん、餌も自宅の台所で作ることになります。ショウジョウバエの餌の原材料は、筑波大学でお世話になっていた研究室から頂戴していたことは前にも述べましたが、台所で、少し大きめの鍋を使って餌の原材料を煮込み、それを味噌汁のお玉を使ってビンに注いでいくという方法でやっていました。大学院時代や研究員時代を通して、これまで、ショウジョウバエの系統を維持するときに特に注意していたことは、餌にカビを生えさせないようにすることだったのではないかと思います。これがおこってしまうと、すべての系統が台無しになってしまうこともありうるので、ショウジョウバエの飼育用の餌ビンや器具などは、特に念入りに滅菌していたのではないかと思います。私の実家には、大学の研究室にあるような特別な滅菌装置などはもちろんありませんでしたが、餌づくりに先立って、使用する餌ビンは煮沸消毒するとともに、市販されていた哺乳ビン用の消毒剤を用いて、飼育用の餌ビンを消毒することによって、なんとか飼育環境を整えていました。

 

 筑波大学にいたときには、餌替えを終えたあとの古いビンの洗浄をよくやったものですが、ガラス製のビンを使い捨てにするわけにもいかなかったので、当然のことながら、洗わなければならないことになります。筑波大学の研究室には乾熱滅菌器があり、使い終わった古いビンは乾熱滅菌器にかけてしまうことによって、古いビンに残っているハエを死滅させてしまうことができたので、使い終わったビンをすぐに洗浄することができたのですが、実家で飼育している場合には、このようなことができません。古いビンを洗うためには、ハエが大量に逃げ出すことを覚悟のうえで綿栓を外して洗うことしか方法がなさそうですが、そこらへんは少し知恵を絞りました。当時、実家には使っていなかった冷蔵庫があったので、冷凍室に使い終わった古い餌のビンを入れておき、生き残っていたハエを凍死させたのちに、ビン洗いをすることにしました。さらに念のために、冷凍庫から出した古いビンに熱湯を加えることによって、生き残りがいないように配慮するとともに、汚れを落としやすくしていました。もちろん、洗い終わったビンを再び使うときには、上述の手順で滅菌してから使うことにしていました。

 

 もちろん、ショウジョウバエを飼育するためには、最善の環境ではなかったとは思いますが、それでも壊滅的な損害を与えることもなく、次のポジションが決まるまでの間、何とか自宅で系統を維持していました。