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台湾での生活(5)研究所にあるジム

研究所にあるジム

 自分の健康を気にかけるようになってから行うようになったもう1つのことは、ランニングです。私は大学生になってから台湾に渡るまでの約20年間、ほとんど体重は変わっていなかったと思います。毎年健康診断などしてきたわけではないので、はっきりとしたことは言えないのですが、それでも、ベルトを締めたときに、いつも使っているベルトの穴が、それまではほとんど変わっていなかったので、あまり体重は変化していなかったと思います。例えば、少し太ってきても、ベルトが苦しくなってきたら、食べる量を減らしたり、ジュースではなく緑茶やウーロン茶を飲むようにしたりするなど、ちょくちょく体の変化に気を付けることで対応することができていました。しかし台湾に渡ってからは、自分の体の変化にあまり注意が向かなくなってしまったようです。その理由の1つは、短パンにTシャツというラフな格好をすることが多かったので、ベルトをすることもなく、自分の体形の変化に気が付きにくかったことがあげられると思います。ベルトをした時に、お腹が苦しくなってきたら、これまでは食べる量を加減してきましたが、短パンでは腰ひもを結ぶだけだったので、日々の生活の中で、自分の体の変化にはあまり注意を向けることができませんでした。実際に、日本に帰国して、実家の体重計で体重を測定したら、たったの3か月の間に10キロ以上太ってしまっていたわけですから、さすがにこのままではまずいと思い、減量のためにランニングをすることにしたのです。

 

 私が台湾で主に活動していた研究所は、台湾の総統府に直属している研究所であり、生物学をはじめとする理系の研究所だけでなく、法律や社会学、歴史学などの文系の研究所を含む多くの研究所が、一か所の広大な敷地の中に集まっているような、研究所コンプレックスを形成していました。この敷地の中には、私が台湾に到着したときに宿泊したホテルのような施設もありましたし、毎日昼食や夕食を食べていた食堂もあります。そして特筆すべきことに、スポーツ・ジムまで完備されていました。このスポーツ・ジムには、いわゆるフィットネス・クラブに置いてあるようなランニング・マシーンから、筋トレ用のベンチプレスのような機械まで置いてあり、結構充実していると思いました。室内プールもありましたし、ダンスをするような、姿見の鏡のある部屋もあったと思います。そして、ランニング用のトラックもこの施設の中にありました。日本でこのように充実したトレーニング・ジムに通うとしたら、結構な値段がしてしまうのではないかと思いますが、この研究所で活動している人は、比較的安く利用できたので、正月休みが明け、日本から台湾に戻ってきてからは、このジムを毎日のように利用して、ランニングやスイミングをするようになったのでした。

 

 ただ、3カ月で10キロ以上急激に太ってしまっていたので、膝への負担はかなりあったのだろうと思います。そして、実際に医者に診てもらったわけではないので、正確なことはわからないのですが、多分、体の内部的にもだいぶ弱っていたのではないかと思います。ランニングを始めてから何日もしないうちに、片方の足の膝を痛めてしまって、歩くことさえままならなくなってしまいました。足もむくんだように太くなってしまい、しばらくの間は、鎮痛剤を飲みながら研究所まで通っていました。そして、痛みもなくなってきたので、また走り始めたのですが、しばらくして、今度はもう片方の足の膝を痛めてしまうことになり、この時は、さすがに歩くことが大変だったので、中古の自転車を購入し、片足をかばいながら、もう片方の痛みのない足で漕ぎながら、研究所まで通うことになってしまいました。結局、10カ月という台湾での滞在期間中に、トータルすると数か月の間、膝を痛めてしまって、満足に動けなかったことになるのだろうと思います。

 

 医者に診てもらえばよかったのだろうとは思うのですが、やっぱり日本人にとっては外国なので、保険がきくのかといった金銭的な問題ですとか、言葉の問題なんかも心配でした。足が痛いのに、それをうまく説明できずに、内臓の手術をされても嫌だったので、結局、痛みがひどいときには、できるだけベッドで安静にし、研究所に通うときには、鎮痛剤を服用しながら通うようにしていました。まあ、海外で生活するときには、健康でいることが不可欠なことなのだろうとは思いますが、それでもやはり、不便さを感じるとともに、体は何よりの資本であることを思い知ることになったのでした。