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日本に帰国

日本に帰国

 

 台湾に渡ってきて早々に、雇用主の先生から戦力外通告を受けてしまっていたこともあり、一応契約通りに、毎日のデューティーをこなしながら、次のポジションを探していました。まあ、正直に言ってしまえば、私が興味を持てそうなプロジェクトにも、もう滅多にお目にかかることもなくなってしまっていたので、ポジションをみつけることはほとんど諦めていましたが、でも一応、日本のある地方の農業試験場で募集していたポジションに応募してみることにしました。台湾での契約は、2008731日までだったのですが、この農業試験場での採用の可否について、7月の上旬にメールを受け取ったので、日本に帰国する直前に結果を知ったわけです。まあ、期待はしていませんでしたが、やっぱり不採用ということでした。結局、つぎの行方が定まらないまま、日本に帰国することになりました。

 

 日本から台湾に渡るときに、台湾でのプロジェクトとは全く関係がなかったにもかかわらず、私が維持してきたショウジョウバエを持ち込ませていただきましたが、そのときには、動植物の防疫局に書類を提出して認可を受ける必要があったので、その書類の作成は結構大変だったわけですが、今度は台湾から日本にショウジョウバエを持ち込むことになります。日本の場合、ショウジョウバエは実験材料ということで、特別な書類を作成して当局から許可を受ける必要はなかったのではないかと思います。このときにはすでに退官されていた大学院のときの指導教官に、一応もしもの時のために、ショウジョウバエを持ち込むことの許可を要請する一筆をお願いした記憶がありますが、入国するときに、手荷物検査を受けるところで、実験用のショウジョウバエであることを申告したら、一応確認をされましたが、それほど大きな問題になることもなく、通過させてもらうことができました。結局、指導教官からいただいた“印籠”を持ち出すことなく済んだわけですが、まあ、なんの問題もなく通過することができて、安堵したことを記憶しています。

 

 ショウジョウハエをどのようにして持ち込むかについては、いろいろと考えを巡らせました。やはり台湾は南国でしたので、気温の変化も大きいのではないかと思いました。なので、できるだけ全滅のリスクを分散させたほうが良いと思い、一応念を入れて、2通りの方法で日本に持ち込むことにしました。いつものように、系統を絶やすことがないように、1つの系統を2本以上の飼育ビンで飼ってきましたが、そのうちの1組は手荷物として機内に持ち込み、私の座席の上の手荷物入れに入れておきました。もう1組は、私の衣類などと一緒に旅行カバンに入れて、空港のカウンターでチェックインしたときに、預け入れの荷物として預けることにしました。飛行機内の預け入れ荷物の保管場所は、上空を飛んでいるときには高温になることはあまり考えられなかったと思うのですが、それでも心配だったので、念のために、帰国間際に、台湾のドラッグ・ストアで大きめのゲル状の氷枕をあるだけ(棚に4つしかありませんでした)買い占めて、旅行カバンの中の、ショウジョウバエが入っている、何本もある小型のプラスティック容器の周りに一緒に入れておきました。まあ、ショウジョウバエを絶やさないように、かなり念を入れて準備をしたのですが、とりあえず大きな問題もなく、無事に日本に持ち帰ることができて良かったと思います。

 

 このように、台湾に渡って早々に、雇用主の先生からは戦力外通告を受けてしまい、また台湾の食事が、余程私と相性が良かったのか、急激に肥えてしまったうえに、膝を痛めてしまい、日々の生活の中で歩くことさえも難渋してしまうということになってしまい、なんだか踏んだり蹴ったりだったように思います。それでも、まさに怪我の功名といいますか、研究者にとって、自分の体がなによりの資本であることを改めて認識することになり、自分の体の健康について、これまで以上に目を向ける機会となりました。足底マッサージやウーロン茶のような、台湾ならではの文化を大いに体験することができ、いままでの海外での生活とはまた一味違う経験をすることができたと思います。台湾の街中を歩いていた時に、たびたび懐かしさといいますか、郷愁といいますか、なんだかとても不思議な感覚を味わうことがあったのですが、その感覚の由来を含めて、自分にとって新たなテーマを見つけ出すことができたようにも思います。台湾での研究プロジェクトには大して貢献することはできませんでしたが、でも私としては、とても多くのことを学ぶことができた10カ月だったと思います。このような貴重な体験をする機会を与えてくださった台湾の先生方、そして、台湾の言葉をまともに理解できなかった私の台湾での生活を、いろいろと援助してくれたラボの助手の女の子たち、台湾で知り合った多くの方々に感謝しています。多謝(大変ありがとうございました)。