自分の抵抗性研究に悔いなし
これまで散々苦労しながら維持してきたショウジョウバエでしたが、処分すると決めたこのときには、不思議なもので、ほとんど躊躇はありませんでした。やっぱり何度も言いますが、ショウジョウバエを飼うだけでも餌代やら電気代やらで、膨大な費用がかかるわけです。学生や大学院生のときは、餌や恒温器を、使って当たり前のように使ってきましたが、でも実際には、それだけでも膨大な費用がかかっているわけです。実際に、自分の実家でショウジョウバエを飼育するという、多少無茶なことをしたおかげで、そのことを認識することができました。電気代が例年の倍になったりしていたわけですから、嫌でも認識せざるを得ませんでした。なので、恐らく、筑波での研究員が終了した時点で、ショウジョウバエを処分しても良かったのかもしれません。まあ、これまでに発表してきた研究の知見があるわけですから、もし将来研究するチャンスができたならば、また勝沼に行って、ショウジョウバエを採集すればいいわけで、そのときには、これまでに積み上げてきた知見に基づいて、第3染色体上の抵抗性遺伝子の、抵抗性に寄与するアミノ酸置換突然変異に特に注目しながら、研究を進めていくことができるわけです。別に今まで行ってきたことが無駄になるわけではないのですから、もう少し早く処分する決断をしていても良かったのかもしれません。さらに、これまで大切に維持してきたショウジョウバエの系統が、誰かいい加減な人に渡ってしまって粗末に扱われるくらいであれば、自分自身の手で処分した方がいいと割り切ることができました。これも、自分の家でハエの系統を何か月も維持するというような、かなり無茶なことをしてきたから至ることができた境地であり、ここまで自分はやれるだけのことはやってきたという清々しい気持ちになることができたのだと思います。特に夏場は、実家の部屋の温度の管理が大変だったので、ここで系統を処分したことについては、なにも思い残すことはありません。
これまで大切に維持してきたショウジョウバエの系統を処分したときに、自分がこれまで行ってきた抵抗性研究についても、ある程度心の整理をつけることができました。自分の実家でショウジョウバエを何か月も維持するという、多少無茶なことをしてきたことを含めて、自分はやれることはやってきたと思えますし、自分の抵抗性研究については、悔いはないと思います。大学院の5年間と非常勤の研究員としての1年間の、筑波での正味6年間に行った実験の結果から、トータルすると論文を合計11本書かせてもらったことになります(このうちの3本の論文については、これから述べていきたいと思います)。ドイツで行おうと計画していた研究を含めて、他にもまだ知りたいこと、やりたいことがないわけではありませんが、まあ、ファースト・オーサーとしてあと何本書けばいいのかという問題もあるので、それらの課題については将来の世代に期待したいと思います。
結局、私が行った抵抗性研究から導かれる大きな結論の一つは、昆虫の自然集団内の殺虫剤抵抗性の遺伝的変異について、私たちが理解していると思っていることというのは、恐らく氷山の一角に過ぎないということだろうと思いますし、これからさらに研究していけば、面白いことがいくらでも出てくるだろうと私は考えています。これから研究が発展し、その暁にどのようなことが明らかになるのか、とても楽しみにしています。