投稿論文の要旨
実家で論文をまとめたのは、筑波大学での非常勤の研究員として行った研究のところで述べた、アセチルコリンエステラーゼ遺伝子の分子遺伝学的な手法を少しばかり取り入れた解析の結果に関する論文が最初だったので、実際には、今回の論文は2本目ということになります。しかし、この論文の原稿を受け付けてくれる雑誌をなかなか見つけることができなくて、ほとんど諦めかけそうになったことがありました。やってきたことをこのまま無にするのも悔しかったので、自分で製本し、筑波でお世話になった指導教官に謹呈したり、甥や姪のような私の身内に配ったりして、まあこんなことぐらいしかできないなあと思ったこともあったのですが、幸運にも、ロシアの雑誌が私の論文を受け付けてくれて、なんとか受理までこぎ着けることができました。
認知症の祖母の介護を手伝いながら、実家で、殺虫剤抵抗性に関する研究のなかでまだまとめていなかった結果を論文としてまとめつつ、高齢者介護の進化遺伝学について勉強を進めていました。その中で、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した、ロシアの博物学者であり、そして無政府主義者でもあったクロポトキンの研究に触れることがあり(クロポトキンには、『相互扶助論』などの著作があります)、とても影響を受けることが多かったので、ロシアの生態学雑誌に自分の論文を発表することができて、とても光栄に思いました。いろいろな紆余曲折があっただけに、私にとって思い入れることの多い論文だったと思います。
原文は英語ですが、日本語に訳してあります。ご批判やご感想などがありましたら、ご連絡をいただけるとありがたいです。
キイロショウジョウバエの有機リン剤抵抗性における変動の集団モデル: 変異型アセチルコリンエステラーゼとチトクロームP450の役割
Takahiro Miyo
Russian Journal of Ecology (2011) 42(6): 510-517.
要旨
キイロショウジョウバエのある自然集団における殺虫剤に対する感受性の遺伝的変異のダイナミクスを、モデル・システムと以前に発表した実験データを用いて検討した。最近の研究において、3つの有機リン剤(OP)についての2つの抵抗性因子、抵抗性型アセチルコリンエステラーゼ(AChE)とチトクロームP450モノオキシゲナーゼ(チトクロームP450)が、勝沼集団(日本国山梨県)に含まれていることが示唆されていた。この自然集団内において、3つのOPに対する抵抗性の遺伝的変異への抵抗性型AChEの相対的な寄与は、チトクロームP450のものよりも大きかった。遺伝子型の密度非依存的な集団遷移軌道に基づいた、このモデルによるシミュレーション分析は、3つのOPに対する抵抗性の遺伝的変異の季節的変動は、主に、この集団内における抵抗性型アセチルコリンエステラーゼ(Ace)遺伝子の頻度の変化によって引き起こされていることが示唆された。
KEYWORDS: アセチルコリンエステラーゼ、チトクロームP450、密度非依存性、キイロショウジョウバエ、殺虫剤抵抗性、集団遷移軌道