投稿した論文の要旨
今回の論文は、オンライン・ジャーナルといわれている雑誌に投稿しました。学術的な雑誌に論文を発表しようとする場合、論文の審査料など、一般的には少なからざる費用がかかります。例えば、何らかの学会に所属していれば(どこでもいいわけではなく、もちろん、自分の研究と関連があるという縛りはあるとは思います)、論文の審査などにかかる費用は免除される場合もあるかもしれませんが、その場合、学会に年会費を払う必要があるので、まあ、決して無料というわけではないのだろうと思います。私のように、就職する目途が立たない以上、どこかの学会に所属して、決して安くはない年会費を毎年払いながら、論文を投稿するという戦略を取ることはできませんでした。オンライン・ジャーナルとはいっても、ケタが違うのではないかとビックリしてしまうような高額な費用がかかってしまう場合もあるそうです。それでも、まあ、決して安くはないのですが、それなりの費用で論文を受け付けてくれる雑誌を探し、投稿することにしました。
今回の論文は、これまでに発表してこなかった、有機リン剤以外の、ピレスロイド剤や有機塩素剤に関する死亡率データの分析結果を報告しています。これまで発表してきたように、有機リン剤の場合には、ブドウの搾りかすの上で集団が増加する秋に感受性レベルが増加する傾向が観察されましたが、DDTやパーメスリンの場合には、このような変動は観察されておらず、むしろ抵抗性の上昇傾向さえ示しているわけです(Miyo et al., 2000)。なので、有機リン剤に対する感受性の増加傾向は、例えば実験室で維持されていたショウジョウバエ集団の誤った混入などといったことでは説明することはできません。集団が増加する秋に感受性レベルが上昇するという傾向は、有機リン剤抵抗性を調べたのと同じ系統を用いているにもかかわらず、DDTやパーメスリンでは必ずしも観察されていないので、有機リン剤抵抗性に特異的な傾向であったということができると思います。
私の筑波大学大学院時代から行ってきた、キイロショウジョウバエ自然集団における殺虫剤抵抗性の遺伝的変異の研究は、ここまでしか明らかにすることができませんでした。今後さらに研究が進み、有意な知見が得られることを願っています。
投稿した論文の要旨を以下に掲げておきました。原文は英語ですが、日本語に翻訳してあります。
キイロショウジョウバエ自然集団における殺虫剤抵抗性の遺伝的構造
Takahiro Miyo
Open Journal of Genetics (2012) 2: 90-94.
要旨
勝沼(日本国山梨県)のキイロショウジョウバエ自然集団における殺虫剤に対する感受性の遺伝的変異のダイナミクスを検討した。3つの有機リン剤(OP)についての2つの抵抗性因子、抵抗性型アセチルコリンエステラーゼ(AChE)とチトクロームP450モノオキシゲナーゼ(チトクロームP450)が勝沼集団に含まれていることが、すでに示唆されている。本研究では、OP以外の他のクラスの殺虫剤、パーメスリン(ピレスロイド剤)とジクロロ–ジフェニル–トリクロロエタン(DDT: 有機塩素剤)に対する感受性についての遺伝的分散を推定した。これらは、OPに対する感受性についての遺伝的分散と同時に存在したことになる。パーメスリンとDDTに対する感受性の分散分析は、勝沼集団からの1雌由来系統間における高度に有意な変異を明らかにし、それぞれの殺虫剤に対する感受性の遺伝的分散は、この期間において異なって変動した。あるクラスの殺虫剤に対する感受性の遺伝的変異の変動が、この自然集団に同時に存在している他のクラスの殺虫剤に対する感受性の遺伝的変異に及ぼすインパクトを論じた。
KEYWORDS: DDT、キイロショウジョウバエ、遺伝的変異、殺虫剤抵抗性、パーメスリン