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精神保健福祉士(3)精神保健福祉援助実習

精神保健福祉士(3)精神保健福祉援助実習

 

 精神保健福祉援助実習は、地域の障害福祉サービス事業所と精神科医療機関の2か所で行われることになっていました。私の場合、地域の生活支援センターでの実習は、2013(平成25 )年14日から125日までの15日間、120時間にわたって行われ、精神科クリニックでの実習は、2013(平成25)年311日から325日までの12日間、96時間にわたって行われることになりました。

 

 精神保健福祉援助実習では、とても多くのことを学ぶことができたと思います。私は、大学院生や研究員として、他の多くのライバルと凌ぎを削るような競争社会に生きてきましたが、認知症対応型グループホームで介護職として仕事をしていく中で、認知症の高齢者も幸せに暮らしていけるような社会とはどのような社会なのかということについて興味を持つようになり、精神保健福祉士という資格を取ろうと考えたわけです。この実習の中で、私がそれまで住んでいたような、ライバル同士が凌ぎを削るような競争社会とはまったくベクトルの向きが異なる、相互扶助という言葉に代表されるような、ユートピアとでもいうべき社会を築こうと真剣に考えている福祉職の方々の仕事ぶりを、実際に間近で拝見させていただくことになり、とても多くの刺激を受けることになりました。なかでも、地域支援センターでの実習の中で、精神科病院に入院されていた利用者の、グループホーム見学に同行させていただいたときの実習での体験がとても印象に残っています。精神科病院での入院生活から、地域での自立した生活へと移行するための支援について、そのプロセスを学ぶとともに、地域移行支援の実際について、その難しさをまざまざと見せつけられることになりました。

 

 この利用者の方は、精神科病院に長期間入院されていたのですが、退院してグループホームに住み、自立した生活を送ることを希望され、地域移行支援を受けられていた方でした。この方には身体にも障害があり、自力での歩行が困難でした。グループホーム見学にあたって、まず車椅子を押すという形で、この利用者自身の足で、病院から最寄りのバス停まで歩かれるということになりました。とても疲れたご様子で、以後の移動は車椅子に乗って、介助を受けながらでの移動となりました。バス停からは、車椅子に乗ったまま、街を走っている一般のバスに乗って目的地であるグループホームまで移動することになります。行きは比較的スムーズだったと記憶していますが、しかし帰路において、障害者福祉の前に立ちはだかる多くの困難を見せつけられることになりました。車椅子に乗って、一般のバスで移動することでさえも、多くの困難が待ち受けていました。

 

 利用者が、車椅子に乗ってバスに乗る場合、まずバスの運転手にも負担がかかってきます。バスの運転手は、まず、車椅子用のステップを出さなければなりませんし、さらに車椅子用のリフトを操作しなければなりません。帰るときに乗ったバスの運転手は、このような、車椅子に乗った乗客への対応に慣れていなかったらしく、なかなかうまくステップを出したり、しまったりすることができないようでした。バス停に止まったまま、10分近くマゴマゴとしているうちに、次のバスに追いつかれてしまい、次のバスの運転手に助けてもらいながら、なんとか発車することができたのですが、運転手がもたもたしている間、バスの中の乗客もイライラしている様子が感じられ、そのイライラは、結局は、車椅子で乗り込もうとしていた利用者に向けられていることを感じることになりました。

 

障害者が、地域の中で自立して生きていくことは、バスでの移動といったことでさえも、多くの困難に満ちていることを、この実習を通してまざまざと見せつけられることになりました。利用者が車椅子で移動すること自体、とても大変なことなのですが、その上に、街を走っている一般のバスが車椅子での乗車に対応した装備を備えていなければならないでしょうし、バスの運転手も、その装備をしっかりと使いこなすことができなければならないでしょう。そして何よりも、周りの乗客も、このような状況を見守ってあげられるだけの余裕がなければならないのだろうと思います。このように、障害者の地域での自立した生活とは言っても、それを実現するためには、多くの困難を乗り越えなければならないことを痛感することになりました。