デイサービスC(2)簡易ベッドで休まれる高齢者
しかし実際のところ、簡易ベッドで高齢者がお休みになっているという現実に、私自身は愕然とすることになりました。私自身、睡眠障害に近い状態になったことがあって、ベッドの硬さが気になって、四六時中寝返りを打つばかりで、なかなか眠りにつけないことがあったり、よく眠ったという爽快感がなかなかえられずに、朝起きても寝足りないと思うことがよくあったりしたものでした。なので、こんな、簡易ベッドで休まなければならない高齢者に対して、心の中では、正直にいえば、かわいそうだという思いがありました。格安で宿泊することができるとは言っても、こういう現実があるわけです。
実際、長期で利用していた利用者の中に、なかなか寝付けない高齢者がいました。この利用者は、本当に15〜30分ごとにトイレに起き出して、毎晩ほとんど眠れていないのではないかと思うような方でした。ぜひ皆さんにも、夜勤として勤務しているときに、利用者の方が、15〜30分ごとに起き出してトイレに行くという状況を考えていただきたいのですが、想像できるでしょうか。私は夜勤でしたので、眠るわけにはいきませんでしたが、私が椅子に座っている前を、15〜30分おきにトイレに向かってトコトコと歩いていくわけです。本人は多少認知症の傾向があったと思うのですが、それを見ている私の方が本当に参ってしまいました。「あ、またか」と1時間のうちに何度も思うことになり、それが朝まで続くのです。何度も見ているうちに、だんだんと言いようのない怒りがこみ上げてくるのです。グッスリと眠りに落ちることができない本人も辛かったでしょうが、見ている方もとても辛かったです。私はせいぜい週に1、2回体験する程度ですみましたが、もし在宅で介護されていたとしたら、ご家族はさぞかし大変だっただろうと思いました。この、なんと言いますか、プレッシャーと言いますか、ゆっくり休んでくれという願い虚しく、15〜30分おきに足音が聞こえてくるわけです。この重圧には、ご家族でも耐えられないだろうと思いました。それでも本当にごくたまにだったのですが、この利用者がぐっすりと眠っていて、夜間ほとんど起き出されることがなかった時がありました。その夜の静けさといったらありませんでした。次の日の朝に、日勤者への申し送りで、「これまでの夜勤勤務の中で一番静かな夜でした」と伝えたところ、その職員も笑ってくれました。夜勤者が感じているプレッシャーのことを理解してくれたのではないかと思います。
格安で宿泊できるとは言っても、このような現実があるわけです。ご家族としては、このような現実にもかかわらず、経済的な問題から利用せざるを得ないという事情があるのかもしれませんし、事業所としてもコストを抑えて宿泊サービスを提供するとすれば、このような簡易ベッドを使わざるを得ないのかもしれません。国や自治体のお偉方は、このような現実をどのように考えているというのでしょうか? あくまでも、高齢の利用者とその家族の側に問題があると考えているのでしょうか? やはり、高齢者をこのような存在にしてしまっている国の高齢者福祉政策は後手後手だと思わざるを得ません。簡易ベッドで寝かせてしまうような状況になる前に、ゆっくりと休息をとることができる環境を整えなければならなかったのではないかと思います。一度自分たちでも簡易ベッドで何日間も寝てみたらいいのではないかと思います。背中の痛みや腰の痛みが身にしみてくるのではないかと思います。