デイサービスC(4)食事による介護の可能性
食事の献立については、近い日にちの献立と、できるだけダブることがないように注意する程度で、あまり細かいことは言われていなかったと思います。もちろん、格安の宿泊サービスで提供される食事ですので、あまりにも豪華すぎてはいけなかっただろうとは思うのですが、それでも棚や冷蔵庫の中にある材料であれば、何を使ってもいいということで、どんな献立にするかは、夜勤者の裁量に任されていました。夜勤に入った当日に、冷蔵庫の中に何があるかを確認して、どんなものを朝食として提供するのかを考えるのですが、これが結構楽しかったと思います。といいますのは、宿泊されていた常連の利用者の中に、食の細い方がいらっしゃったのですが、その方になんとかしていっぱい食べていただきたいと思って、いろいろとメニューを考えたり、使う食材を選んでみたり、味や彩りを工夫してみたりしたからです。まさに、この利用者の方にどのようにしていっぱい召し上がっていただけるかを、夜勤に入るたびに、試行錯誤しながら研究してきたことになるのだろうと思います。
例えば、おかずだけ食べつくしてしまって、ご飯が残ってしまうようなことがあったのですが、ご飯自体に味をつけて炊き込みご飯にしたり、混ぜご飯のようにしたり、また、おかゆにして、いろいろなふりかけとともに提供したりして、ご飯が残らないように、いろいろと工夫してみました。最初は、なかなか食事が進まない方だったのですが、いろいろと研究を重ねていった結果、全量召し上がっていただけるときもあり、研究のしがいがあったと思います。その中でも、「これ、美味しいね」といっていただけたときは、私自身とても嬉しかったのですが、しかし美味しいといってくれた料理自体の味付けは、ただ中濃かなんかの市販のソースをかけただけだったので、私自身の工夫とは言いがたいものがありましたが、それでもこの利用者の方の好みはソース味なのだろうということがわかったので、いろいろと試してみる価値はあったのだろうと思います。
何よりも、食事をしっかりと摂っていただけると、利用者の顔の表情も変わってきますし、その日一日を元気に過ごしていただけるのではないかと思います。「美味しい」といっていただいたときの嬉しそうな表情は、認知症の高齢者にとって、その方の感情にアクセスするための一つの道を示してくれていたように思います。もちろん、まだまだ考えなければならないこともたくさんあるのだろうとは思うのですが、食事というのは、特に認知症高齢者にとって、少なくとも笑顔を引き出すための可能性を与えてくれるものだと思いました。
私が夜勤として勤務している期間に、長期間利用していた利用者の方々も、だんだんと特養のような施設へ入所されていき、一人減り、二人減りしていって、最終的にお泊まりサービスを利用する方がいなくなったこともあって、夜勤に入ることがなくなってしまいました。事業所の方からは、同じ系列の別のデイサービスセンターでの仕事を紹介してくれたのですが、住んでいる実家から少し離れていたこともあり、この機会に退職することにしました。2015(平成27)年7月から2016(平成28)年9月までの1年3か月の間お世話になったことになります。もちろん、高齢者介護に関する多くのことを学ばせていただきましたが、簡易ベッドのような、高齢者福祉の現実を目の当たりにし、いろいろと考えさせていただく機会をいただきました。ここでの勤務の中で知り合うことができた多くの方々に感謝します。
この介護事業所では、例えば簡易ベッドで高齢者が休まなければならないといったような高齢者介護・福祉の現実を目の当たりにし、少なからざるショックを受けることになりましたが、それと同時に、高齢者介護における食事の重要性についても、改めて気付かせていただくことができました。
夜間の宿泊サービスを利用する方々がいなくなってしまって、夜勤専従職が必要なくなってしまったこともあり、2016(平成28)年9月に退職することになりました。朝食の調理や準備など、これまでの介護職としての経験とは一味違う経験をさせていただくことができました。この介護事業所で出会うことができた皆様に感謝いたします。ありがとうございました。 三代