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ショートステイB(1)時給の良い仕事

ショートステイB(1)時給の良い仕事

 

 私はこれまでに、何度かフルタイムに近い形で介護職として勤務したこともありますし、また16時間以上継続して勤務しなければならない夜勤専従として働いてきたこともありますが、これらの経験を通してびっくりしたことがあります。それは、高齢者介護という過酷な仕事の脳に対する計り知れない影響でした。あくまでも私自身の個人的な経験からの推測なので、あまり大きな声では言えないのですが、それでもフルタイムに近い形で勤務したり、夜勤専従として働いたりしてきたあとで、例えば、これまで大学や大学院で勉強してきた、微分・積分のような計算ですとか、もっと言ってしまえば、中学や高校のときに得意としてきた数学の計算が、まったくといってよいほどできなくなってしまっていました。私は、幼いころに父親から、算数や数学のスパルタ教育を受けてきたので、計算だけは誰にも負けない自信がありましたし、計算ミスなんて絶対しない自信がありました。しかし、これらの介護職としての経験を積み重ねていく一方、これまで積み重ねてきた学力の衰え、特に計算能力の顕著な低下を認識することになりました。もちろん、研究職から離れてしまったことによって、いままで学生や研究職として研究していたときのような、計算や諸々の能力を使わなくなってしまったということも大きく影響しているとは思いますが、やはり夜勤などで眠いのを我慢して無理に働き続けなければならなかったことによる脳への影響もかなりあったのではないかと思います。これは、自分にとってかなり大きなショックでした。やはり、例えば計算能力にしても、使っていなければその能力は衰えていってしまうものなのでしょうし、さらにそのうえに、夜勤などによる無理な仕事の脳への少なからぬダメージを考えると、これらの能力の維持のためには、日々継続した訓練が必要であることに改めて気が付いたわけです。つまり、これまで高齢者介護を進化遺伝学的な観点から考察し研究してきた自分としては、必要十分な収入を確保したうえで、さらに研究のための時間とともに、これまでに私が積み重ねてきた学力や知識の維持に努めなければならないということに改めて気が付きました。これらの勉強のための時間を確保するために、これまでよりも介護職として働く時間を減らしながらも、かつ収入をそれなりに維持するとなると、当然のことながら、非常に短絡的な発想として、時給がよい介護職の仕事を求めるようになるのは人情だろうと思います。

 

私はこれまで述べてきたように、いくつかの介護職を経験してきましたが、そのすべては、インターネット上の介護関係の求人サイトで探してきました。インターネットの介護求人サイトに登録しておくと、毎日のように求人情報を載せたメールが送られてきます。私がこのときに注目した介護事業所は、短期入所生活介護、いわゆるショートステイと呼ばれる介護サービスを提供する事業所でした。もちろん、いろいろな介護サービスを実際に現場で働きながら経験したいという私自身の興味もありましたが、このときは1回の夜勤に対して支払われる給与の良さに、特に惹かれました。1回夜勤に入ると2万数千円の給与が出たので、夜勤パートに対して支払われる額としては、当時最も高いレベルだったのではないかと思います。あまり見たことがない額だと思いました。でも、高いには高いなりの理由があったわけです。これについては以下で詳述したいと思います。