高齢者介護の進化遺伝学(8)20歳の頃の自分を忘れるな!
この高齢者介護に関する研究は、もともとは、千葉大学の教養課程に在籍していたときに、「社会学」の講義や「社会調査セミナー」でお世話になっていた河西宏祐教授を頼って、いろいろとお話やご示唆をいただきながら進めていこうと考えていました。しかしすでに他界されてしまっていたことを知り、残念ながらこのような貴重な機会がすでに失われてしまっていたことを知りました。
社会調査セミナーにおいて、先輩方や同期のクラスメイトたちが書いたレポートが一冊の本になって出版されているのですが、あれから30年近く経った今、当時のクラスメイトたちや、お世話になった先輩方の懐かしい名前を目にしながら、あらためてこの本のページをめくってみると、河西教授は最後のページで以下のようにおっしゃられていました。
次代の研究者を育てることが満たされない夢で終わるとすれば,教養部の教官としては、せめて、高校を卒業したばかりで清新の気運に燃え、日本の大学の怠惰な気風にまだ染まっていない1・2年生にたいして、日本社会を実証的に研究することのおもしろさ、そして、自分の目・耳・体を通して事実を把握し、分析していく実証主義的精神を身につけることの大切さを教え込もう、私はいつしか、そこに教師としての使命感と喜びとを見出そうと、自らを鞭打つようになってきた。ましてや、われわれが生きている今という時代は、かつて経験したことがない諸現象が日々生起する、羅針盤のない時代である。近い将来でさえ,それがいかなる時代となるのか、いかなる生き方がそこで展開されるようになるのか、この問いにたいする道標さえ見出すことができないのである。だからこそ、現実のなかを這い回り、そこから、自分自身の地図を描き出すしか道はないのであり、そのためにも、実証主義の精神が求められるのである。(河西, 1991, p. 488)
今この河西教授のお言葉を拝見すると、河西教授の学生に対する並々ならぬ熱い思いを感じることができますが、まだ20歳やそこらの頃の自分は、正直幼かったと思います。ここに示されていた河西教授の熱意を理解することができず、むしろ鬱陶しいとさえ思っていたのではないかと思います。
20歳かそこらの頃に河西教授と出会い、高校を中退し、大学入学資格検定を通過して大学に入学してきたばかりの生意気盛りな学生として社会調査セミナーなどでお世話になっていなければ、40歳を過ぎて介護施設で働きながら、高齢者介護を研究しようなどとは思わなかっただろうと思います。なんだか不思議な縁のようなものを感じるとともに、取り返すことのできない時間の流れをとても残念に思います。