祖父母から寄与を引き出すこと(2)高齢者からの寄与:祖母仮説
その時にいただいたご批判のなかで、“祖母仮説”と呼ばれている有名な仮説との関わりについてご質問をいただいたことがありました。祖母仮説とは、人間や一部の哺乳類において観察されているような、例外的に長い繁殖停止後のライフ・スパンを説明しようと試みる仮説の一つです。例えば人間の女性の場合であれば、繁殖を停止してから亡くなるまでに数十年にも及ぶ年月が流れることになるわけですが、この祖母仮説は、繁殖を停止してしまってからの長いライフ・スパンは、次世代への寄与という観点から見た場合に、いくらかの有利性があるのではないかと主張します。なぜならば、高齢者は、自分自身の娘や息子のような、より若い血縁者の育児などを援助することで、彼らの繁殖成功に直接的、間接的に寄与することによって、自分自身が有する遺伝子を娘や息子などの血縁者の繁殖を介して、間接的に次世代に伝えることができるだろうと考えられるためです。しかしながら、延長された繁殖後のライフ・スパンから得られるこのような利益は、当然のことながら永遠に続くわけではなく、高齢者がやがて歳をとり、彼らの健康状態が低下していくにつれて徐々に弱まっていきます。私がこれまでに高齢者介護について考えてきたことは、高齢となった親がさらに歳をとって衰えてきてしまったあとのことであり、祖母仮説が想定している次世代への貢献を成し遂げたその後の時期のことを主に扱っていることになるのだろうと思います。よって、私がこれまで高齢者介護の進化遺伝学的なモデルを用いて考察してきたことは、祖母仮説とまったく矛盾する話ではありません。前回の論文について、その原稿を読んでいただいたうえでご質問をいただいた先生に対しては、以下のようにお応えさせていただきました。
高齢者による若い世代に対するポジティブな寄与に選択的な有利性があることについては、これまでにも論文が出されていると思いますが、若い世代に対する高齢者のネガティブな影響(介護のコスト)についての進化的な影響については、私の知る限りでは残念ながら知りませんので、拙いながらも、本論文を提起しようと思った次第です。100年後の日本がどうなるかを心配するのは、悲観的過ぎるでしょうか?