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祖父母から寄与を引き出すこと(3)高齢者からの寄与:祖母仮説

祖父母から寄与を引き出すこと(3)高齢者からの寄与:祖母仮説

 

 とは言うものの、このような、私が考えてきた高齢者介護の進化遺伝学と、著名な祖母仮説との関わりについて、誤解といいますか、混同されてしまった方も結構多かったのではないかと思います。論文の本文を読んでいただければ、まあ、はっきりとわかっていただけたのだろうとは思いますが、なかなかじっくりと読んでいただけるだけの時間がない、お忙しい方がほとんどなのでしょうから、やむを得ないことなのかもしれませんが、どうもわたしが英語で執筆した論文のタイトルが、あまり明確ではなかったのではないかと思います。介護という日本語を英語にする場合、care(ケア)という単語を用いると思いますが、子供を養い育てる場合、特に乳幼児期の養育という日本語に対してもcareという単語が使われることがあると思います。日本語であれば、介護と養育という別々の単語を当てることができますが、英語にする場合には、同じcareという単語を使っていたので、例えば祖母仮説のことが頭にある人々にとっては、英語でelderly careelderly caringという言葉を目にして、高齢者による乳幼児の養育と誤解された可能性があったのではないかと思いました。もちろん私も、辞書やインターネット等で調べたうえで、これらの英単語を当てていましたが、やはり、日本語と英語の表現の違いの難しさを感じることになりました。このように、私が主張してきたことに対して、多くの方々が誤解しているかもしれないという思いがあったので、祖母仮説が主張しているような、高齢者が介護を必要とする前の、次世代への繁殖的な寄与を、私が前回提出した高齢者介護の進化遺伝学モデルの中に組み込むことによって、例えば、祖母仮説とはまったく矛盾するものではないことを明確にすることができるのではないかと考えました。むしろ、同じモデルの中に組み入れることで、現在日本の高齢者がおかれている状況を、より現実的に議論できるかもしれないと思い、これまでに構築してきた高齢者介護の進化遺伝学的モデルに、祖母仮説から期待されるような、高齢者世代からの貢献を考慮に入れたモデルを作って、考察を行うことにしました。