祖父母から寄与を引き出すこと(4)高齢世代からの貢献を考慮に入れたモデル
前回提出した論文において、私は、親による乳幼児の養育と、その子供が成長したあとにおとずれる年老いた親の介護との間に強力な結びつき(プレイオトロピックな制約)を仮定した進化遺伝学的モデルを用いて、高齢者介護について議論してきました。ここでもう一度確認しておきたいのですが、子供、特に乳幼児にとって、親との間に確固とした関係を確立することは、測りしれないほどの選択的有利性を持つことはほとんど疑う余地はないと言えると思います。なぜならば、私たち人間は完全に無力な状態で誕生してくるため、乳幼児でいる間に、他者(通常は親)からの養育を受けなければ生存することはできないためです。言い換えると、乳幼児期に他者、特に親からの養育がなければ、乳幼児は生存することができないわけですから、他者(主に親)からの養育を受けられない場合(生存確率は0)をもとにすると、他者(主に親)からの養育を受けられる場合の生存上の有利性は、無限大に近いと言えることになります。それゆえ、子供、特に乳幼児にとって、親との間で確固とした関係を確立することは、測りしれないほどの選択的有利性を持つことになります。
ここで親と子の間の確固とした結びつきについて、実例を挙げて説明すると、例えば、イスラエルのキブツのような、いくつかのユートピア的な社会的実験からの証拠などから、親子間の絆を妨げることは、ほとんどの人々にとって耐えがたいフラストレーションをもたらし、人間の願望の体系の中で親子間の絆が重要な位置を占めていることが示唆されています。ここで取り上げているキブツとは、イスラエルの建国運動において形成された共同体で、構成員間の完全な平等、相互責任、生産・消費の共同性の原則などに基づいて組織されたということですが、はじめのうちは、男女間の性的な平等を確保するために、子供が生まれると、子供たちは公共の保育所に移され、その後の世話と教育がすべて公共的に行われることによって、女性は子育てから解放されていたということですが、しかし次第に、母親たちは多くの時間を子供たちと触れ合うことができるように求めるようになり、やがてたいていのキブツでは、両親と子供たちの間の特別な絆が再び現れ、親子間の結びつきを中心に置く私的な家族が、子供の養育の基本的な社会的単位として復活したということです。このイスラエルのキブツの例からも示唆されるように、親と子供の間の絆や、母親による子供の世話というものは自然なものであり、それらは人間の自然本性に根差したものであることが示唆されます。それゆえ、私は、確固とした親子の間の絆を確立することは、親にとっても子供にとっても、人間の性質・自然本性の一部といえるものであり、高齢者介護は、このような親子の間での確固とした絆を築くことが、乳幼児にとって測りしれないほどの生存上の有利性を持つことの不可避的な帰結(プレイオトロピックな制約)であり、それは同時に、親にとっても自身の適応度を高める(自身の遺伝子をより多く寄与する)ことにつながると仮定した進化遺伝学的モデルを用いて、前回の論文の中で高齢者介護について議論してきたのでした。
(続く)