祖父母から寄与を引き出すこと(5)高齢世代からの貢献を考慮に入れたモデル
このように、これまで述べてきた進化遺伝学的モデルは、親子間の相互作用に焦点を置いてきました。特に、子供の生存率に対してポジティブな効果をもたらし、それゆえ親自身の適応度にもポジティブな効果を及ぼすと考えられる親による乳幼児の養育と、年老いた親に対してポジティブな生存効果をもたらすものの、子供の繁殖に対してはネガティブな産仔数の効果を及ぼす可能性がある子供による高齢者の介護について考慮してきました。特に少子高齢化が叫ばれて久しい昨今の日本では、私たちは日常生活において、高齢者介護の莫大なコストに、より注意を向けがちではありましたが、いわゆる“祖母仮説”から期待されるように、繁殖期を過ぎた高齢者は、より若い近親者の繁殖成功に対する寄与を介して、間接的に自分自身が持つ遺伝子を次世代に寄与することができる、すなわち、繁殖期を過ぎたあとでも、若い世代に対する援助を介した間接的な進化的有利性があると考えられます。それゆえ、ここで親子間の相互作用だけではなく祖父母と孫からの寄与もまた含めた進化遺伝学的モデルを用いて、高齢者の介護について考察を行いました。祖父母や孫を含む家族メンバー間の相互作用の効果は、時間的な状況に依存して、ポジティブもしくはネガティブとなると考えられます(下図参照)。つまり、繁殖を終えた親が元気なうちは、次世代に対してポジティブな寄与を行うことができますが、それは永遠には持続するものではなく、やがて老化し衰えていくにしたがって、介護が必要な状況へと移行していくことになると考えられます。