祖父母から寄与を引き出すこと(6)投稿論文の要旨
前回の論文と同様に、エイジ構造を考慮に入れた進化遺伝学的モデルと、エイジ構造を考慮しない不連続世代モデルを用いて考察を行いましたが、特に不連続世代モデルでは、祖父母や孫からの寄与を考慮に入れなければならないため、家族構造を維持したモデルが必要となり、結果として多くの家族タイプの間での交配をそれぞれ別々に考えていかなければなりませんでした。かなり煩雑になるため、もし興味がある方は、ぜひ拙著『高齢者介護の進化遺伝学 なぜ私たちは年老いた親を介護するのか?』を参照していただきたいのですが、これらのモデルを用いて得られた結果をまとめて、雑誌に投稿することにしました。
今回は、前回の論文投稿時の苦い経験を反省し、日本の雑誌に投稿することは最初から考えずに、海外での発表を期することにしました。しかし、海外での生活を切り上げてからすでに何年にもなりますし、日本に帰国して以来、英語に触れる機会がほとんどなくなってしまったため、正直なところ、英語での論文執筆にかなり苦労することになりました。もちろん、私にとっては、これまでに学んできた分野とは異なる新たな分野での挑戦でしたので、使い慣れていない言葉も多くあったとは思いますが、なにしろ一つ一つの単語がまったく頭に思い浮かばず、それこそ一歩一歩進んでいくかのように、ゆっくりとしか書き進められませんでした。それでも、エジンバラでお世話になっていた教授には、このときも論文原稿に目を通していただいて、ご批判をいただくことができ、エジンバラを去ってからすでに15年近くの歳月が流れているにもかかわらず、変わらないご支援をいただき、ありがたいことだったと感謝しています。
私は、前回の高齢者介護の進化遺伝学に関する論文については、海外のオープン・アクセス・ジャーナルに投稿したのですが、私のメール・アドレスには、多くのオープン・アクセス・ジャーナルから投稿を促すメールが、海外からたびたび届くようになっていました。雑誌に投稿する場合、審査料や手数料のような、少なからざる費用が発生することが多いため、私のように、アルバイトをしながら、市民研究者のような立場で論文を書いている者にとっては、投稿できる雑誌も限られてきてしまうのですが、それでもオープン・アクセス・ジャーナルの場合、比較的費用を抑えることができるので、昔に比べれば、今はだいぶ恵まれた状況になっているのだろうと思います。今回は、メールで投稿を呼びかけてきてくれたインドのオンライン・ジャーナルに投稿することにしました。以下に、発表した論文の要約を載せておきたいと思います。原文は英語ですが、和訳してあります。
進化遺伝学的モデルを用いた高齢者介護に関するいくつかの考察
Takahiro Miyo
World Journal of Advanced Research and Reviews (2020) 8(2): 189-202.
集団サイズにおける減少傾向と結びついた、集団の高齢化が進行中である集団における高齢者介護の進化を検討するために、年老いた親の介護と乳幼児の世話との間にプレイオトロピックな制約を仮定した、いくつかの進化遺伝学的モデルを展開している。本研究は、高齢者介護のコストがそれほど重くないならば、高いレベルの年老いた親の介護が集団内で進化しうることを示唆するだけでなく、もしより若い世代が高齢者介護の高いコストを経験するならば、この行動は集団から排除され、高いレベルの乳幼児の世話の喪失がもたらされるかもしれないことも示唆する。また、たとえ高齢者介護の高いコストが存在するかもしれないとしても、高齢者からの援助の利益は、年老いた親の介護という行動が集団内に維持されるためだけでなく、集団成長のためにも不可欠であることが示唆された。得られた結果に基づいて、日本のような一部の国々が現在もしくは将来直面するであろう、いくつかの社会的な問題について議論している。
Keywords: 高齢者介護、進化遺伝学的モデル、祖父母、親子間相互作用、プレイオトロピックな制約