より良い高齢者介護観に向けて(3)自らが作成したケアプランとは?
そうはいっても、自分の将来の生活を予測することは簡単なことではありません。例えば、病気や障害を有する人々は、自分の幸福な状態を誤って報告する傾向にあるだけでなく、健康な人々もまた、病気や障害が自分の生活に及ぼすであろう情緒的な影響を誤って予測する傾向にあり、誤った意思決定をしてしまうリスクに人々をさらしてしまっていることが示唆されています。また、医療的な処置についての望みは、不安定な健康状態の患者だけでなく、一貫した健康状態の患者においても時間に渡って変動し(例えば、あるときには喜んで受けたいと望んでいるが、他の機会にはあまり望まなくなっている、あるいはその逆)、それゆえ、ACPのプロセスは、時間に渡って再評価されることによって強化されることが示唆されています。加えて、認知症の人々は将来の自己や、自分の疾患がその家族に課すかもしれない潜在的な負荷を考えることが困難であり、それゆえ望みや希望について医師とディスカッションすることが認知症の人々のためのACPプロセスにおいてもっとも価値があることであることが示唆されています。ですから、自らが考えたことや想像したことを、以後経時的に見直し、例えば子供や配偶者などの家族、主治医をはじめとする医療提供者のような他者との間で、たびたびディスカッションしていくことが重要なのだろうと思います。
高齢者やその介護者の経験は、たいてい高度に個別的なものであり、その経験はしばしば一般的、伝統的なアプローチとは両立するものではないかもしれません。つまり、他の人で真であったとしても、当の本人にとっては必ずしも真ではないことがいっぱいあるでしょうし、他の人がやっているからといって、本人にもあてはまるというわけではないかもしれません(もちろん、公共の福祉、法律に反しない限りにおいて)。ということもあって、終末期にある高齢者とその介護者の実際の経験に基づきながら、ACPに対する新たなアプローチが示唆されています。実際、日本人における終末期医療および事前指針に対する姿勢を検討した質的研究において、終末期にある人々を介護するという経験が彼らの姿勢にポジティブ、ネガティブな影響を持っていたことが明らかにされています。同様に、大切な人を介護するという個別的な経験は、他者からの介護を必要とするようになった自分自身の将来の生活を思い描くのに役立つのではないかと考えられます。そこで私は、ここでの研究において、健康な状態にある高齢者に、他者からの介護を必要とする自分の老後をどのようにして想像してもらうことができるかを明らかにしようと試みました。そのために、私はある一組の高齢者夫婦に半構造化インタビューを行い、自分自身の年老いた親を世話していた昔のことを思い出してもらうことにしました。年老いた親を世話していた昔を思い出してもらうと同時に、他者からの介護を必要とするかもしれない自分自身の将来の生活を想像してもらうように、彼らにお願いしました。ここで行った研究の目的は、健康な状態にある高齢者に、実際に自分の両親を介護していた昔のことを思い出してもらいながら、それを介して、介護を必要とするようになった自分自身の将来を思い描いていただくとともに、自分自身の将来のケアプランを自分自身で作成してもらうことにありました。