より良い高齢者介護観に向けて(6)元気なうちに作成したプラン
A夫人が健康な状態であるときから彼女自身の老後を考えるという観点から、彼女がインタビューの間に語ったことは、老後を必ずしも悲観するものではなく、むしろアクティブに自分の老後における役割を果たしていこうとする意志が感じられました。アクティブに自分の役割を果たしていくことは、彼女の健康を維持し、ケアやサポートを必要とするようになることを妨げることにつながるのではないかと彼女は考えていました。特に、彼女の母親の生き様が、自分の老後の生活に対するイメージに大きく影響しているように思います。インタビューの質的データ分析から、A夫人の老後の望みや希望は以下のようにまとめることができました。本人自身とディスカッションを行うことによって、私自身のバイアスを排除するとともに、本人からも同意は得られています。
母親は、最後までしっかりとしており、一人で日常生活をきちんとし、化粧や着るものなど、いつもきちんとしていた。一生懸命に家事をしたら、認知症の進行を抑えられるかもしれない。いつまでも家事をしていきたいと思うのは、最後までしっかりとしていた母親の姿を見てきたためであり、自分が介護を受ける立場になっても、自分でできるだけのことは、やっていきたい。
これまでは夫婦間、家族間のことで忙しく、なかなかご近所づきあいもできなかったが、将来余裕ができたら周りの人ともお茶などを飲みながら、仲良く付き合っていきたい。
母親は最後まで意識がはっきりしていたが、逆に嫌なことを思い出すこともあったと思う。悪いことや嫌なことを思い出し、思い通りにならないことを嘆くような老後を送りたくはない。
子育てしている頃は、夫婦間、家族間のことでいろいろと大変であり、自分はよく頑張ったという思いがあるので、認知症になったときに自分がどうなるか、認知症になってみないとわからないが、自分は小さい頃よりも、子育てしている頃に戻っていると思う。自分が認知症になって介護が必要になったら、そのことを思い出して関わってほしい。
もちろん、これはA夫人の老後についての望みや希望の最終バージョンであるはずはなく、それゆえA夫人とその家族がたびたび機会をみつけて、彼女の健康状態だけでなく、彼女の望みや希望を繰り返しディスカッションすることが重要なのだろうと思います。それが彼女の老後の糧にもなるのではないかと考えています。
(続く)