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より良い高齢者介護観に向けて(8)投稿論文の要旨

より良い高齢者介護観に向けて(8)投稿論文の要旨

 

 このときにAご夫妻にご協力をいただいて行ったインタビューの結果を用いて、論文にまとめることにしました。やっぱり、自分自身の年老いた親を介護したときの経験は、その人の老後に対するイメージに対して、とても大きな影響を持っているのではないかと思います。例えば、認知症の母親を介護したときの経験は、Aご夫妻に、自分自身が認知症になることについて、必ずしも悲観的なイメージを与えることはなく、むしろ、母親のように穏やかに最後を迎えることができるならば、認知症になってもいいのではないかといったような、認知症を自分自身の運命として受け入れることができるような心境にまでなれていたのではないかと思います。自分自身のより良い高齢者介護観に向けて、いくつかの示唆が与えられたと考えています。

 

 私は、これまで遺伝学系の雑誌に投稿することがほとんどでしたが、今回の論文については、遺伝学的な要素はほとんどなく、人間性に関連するものと考え、ヒューマニテイーに関連のあるオンライン・ジャーナルに投稿することにしました。相変わらず、自分が考えていることを英語に翻訳することにかなり苦労しましたが、今回もエジンバラで勉強していた時にお世話になっていた教授に、いろいろとみていただきながら論文原稿を執筆しました。50歳を過ぎ、英語の能力も衰えがかなり目立ってきましたが、エジンバラでお世話になっていた教授のお手をいつまでも煩わせてしまうことになってしまい、大変申し訳なく思っています。

 

 以下に論文の要旨を載せておきたいと思います。原文は英語ですが、和訳してあります。

 

より良い高齢者介護観に向けて: ケース・スタディ

 

Takahiro Miyo

Asian Journal of Humanity, Art and Literature (2020) 7: 91-112.

 

目的:高齢化率は世界規模で増加傾向にあり、日本は世界で最も高くなっている。この困難な集団動態学的な状況の下では、高齢者がどれくらいよくその老後を過ごすことができるかが、最も重要な問題の一つだろう。本研究では、健康な高齢者が他者からの介護を必要とする自分の将来の生活をどのように思い描くことができるかを明らかにすることを目的とした。それは高齢者が自分自身のケアプランを作成することに役立つかもしれない。

 

方法論:自分の親を介護する様々な経験をしてきた、一組の高齢夫婦に半構造化インタビューを行った。親を介護していた当時を思い出してもらうとともに、他者からの介護を必要とする自分自身の将来を思い描くようにお願いした。

 

結果:彼らに対して行ったインタビューデータの質的記述的分析に基づき、高度に個別的なケアプランが、それぞれの研究参加者についてもたらされた。年老いた親の老後の生き様だけでなく、親を介護していた彼らの経験もまた、自分自身の将来のケアプランに色濃く反映されることが示唆された。

 

結論:他者からの介護を必要とする将来を、リアリティーをもって思い描くためには、関連性のある具体的な経験が必要であるかもしれない。それは、家族、友人、医療提供者らと頻繁に自分自身の将来についてディスカッションすることを可能にするだろう。

 

Keywords: ケアプラン、高齢者介護、集団の高齢化、質的記述的アプローチ、福祉