翻訳作業 21日目

翻訳作業 21日目

 

この段落は、少し長いので、これから何回かに分けて作業していこうと思いますが、今回のこの部分は、誤解を招きやすいところでもあると思うので、丁寧に訳していかなければならないと思います。私は、本文の中で以下のように記述しました。

 

P. B. Medawarは、免疫学の研究で1960年にノーベル医学生理学賞を受賞したイギリスの研究者ですが、老化の進化のメカニズムに関して、現在でも主要な理論の一つとされている“突然変異蓄積理論(mutation accumulation theory)”の提唱者として知られています (Medawar, 1946, 1952)。そのP. B. Medawarが1946年の論文のなかで、次のように述べていました。

 

“教訓は、高齢者について何かをするという問題は、ゆっくりとではあるが、徐々に緊急を要する問題となっていることである。70歳で苦しみなく人々を殺すことが、結局は真の親切であると言われることがないようにするためにも、何かをしなければならない”(原文英語。訳は著者による。Medawar, 1946)。

 

一見すると、とても過激な見解のように見えますが、あくまでもMedawarが意図していることは、将来到来することが予測される高齢化社会の悲惨さを見据えた上で、上で述べたようなことが現実として起こらないようにするために、何かをはじめなければならない、ということです。(三代、2021、p. 6〜7)

 

ここで取り上げたP. B. Medawarの言葉は、一見するととても過激に見えますが、果たしてそうでしょうか? 少しでもじっくりと考えてくれたら、そんなことはないことはすぐに解っていただけると思います。P. B. Medawarは、このまま何もしなければ、高齢者が苦しみながら生きていかなければならない世の中が将来やってきてしまうから、そうならないために今から何らかの対策をしていきましょうということであって、このような至極まっとうなことを今から何十年も前の第二次世界大戦終結当時から公言していたわけです。まずそのことに注意する必要があると思います。慎重に作業していく中で、以下の英訳が得られました。

 

P. B. Medawar is a renowned British researcher who won the Nobel Prize in Physiology or Medicine in 1960 for his research in immunology. He is also known as the researcher who proposed the "mutation accumulation theory," which remains one of the leading theories of the evolutionary mechanism of senescence (Medawar, 1946, 1952). In his 1946 article, P. B. Medawar mentioned:

 

The moral is that the problem of doing something about old age becomes slowly but progressively more urgent. Something must be done, if it is not to be said that killing people painlessly at the age of seventy is, after all, a real kindness. (Medawar, 1946; the Italic in the last sentence is the author’s own)

 

At first glance, it looks like a very radical view. However, what Medawar was really aiming for is that upon recognizing the tragedy of the aging society that is expected to arrive in the future, something has to be done to prevent the above-mentioned tragedy from happening in reality. 

 

この論文が発表された第二次世界大戦終結当時でさえも、P. B. Medawarに対するいろいろな批判があっただろうということは想像に難くはありません。しかし、超高齢社会を迎えてしまった現在の日本に暮らしている日本人の一人として、P. B. Medawarの言葉は、とても重く響いてきます。このような社会を迎えてしまった今、何の対策も講じてこなかったことの方が、はるかに残酷で過激なことだったのだと思います。