翻訳作業 29日目
今回は、この節の最後の段落です。実家で暮らしていた祖母が認知症になったことが、私が高齢者介護と関わる直接的な動機を与えてくれました。当時研究職を探していたのですが見つけることができず、その一方で奨学金の返済のために、毎月決まった額が銀行口座から引き落とされていたので、働かないわけにはいかず、そこで勉強を続けながらもアルバイトをしなければということで、介護職としても介護の世界に入り込むことになった経緯を述べています。私は本文の中で以下のように述べています。
筑波大学での大学院生時代に、私は奨学金をいただきながら研究させていただきました。現在の日本では、返済しなくてもいい種類の奨学金もだんだん増えてきているようですが、私が大学院生だった当時の奨学金は、返済しなければならないものが一般的でした。博士課程5年間トータルすると、結局数百万円の返済額が残されることになりました。精神的にも金銭的にも、実際にかなりの負担感がありました。なかなか次の研究職を見つけられないまま、奨学金の返済などのために自分の銀行口座の残高が日々減っていくなかで、“何かをしなければならない”という高齢化社会の到来に対するP. B. Medawarの警鐘文にインスパイアされ、介護職として高齢者施設でアルバイトしながら、人間集団の高齢化という問題を、今まで勉強してきた進化遺伝学を背景にしながら考えていこうと思いました。進化遺伝学を学んできて介護職をしている人間は、世の中にはそれほどいないのではないか? 他の人が持つことができない自分なりの視点から、子どもたちの未来に貢献できるのではないか? このように考えて、高齢者介護の世界に入り込むことになりました。(三代、2021、p. 9〜10)
相変わらず、細かな表現がうるさく感じましたが、以下の英訳を得ました。
When I was a graduate student at the University of Tsukuba, I received a scholarship to conduct research. In Japan today, the number of types of scholarships that do not need to be repaid seems to be increasing, but when I was a graduate student, most scholarships had to be repaid. After five years of my doctoral course at the University of Tsukuba, I ended up with several million yen in repayments. It was a real burden, both mentally and financially. The balance of my bank account was dwindling day by day due to the repayment of scholarships while I was unable to secure my next research position. Inspired by P. B. Medawar's warning message, I decided to think about the problem of the aging of human populations from the standpoint of evolutionary genetics, which I have studied so far, while working as a part-time caregiver at a care facility for the elderly. There would be very few people in the world who have studied evolutionary genetics and are now working as caregivers. Would it be possible for me to contribute to the future of children from my own perspective that others cannot have? Keeping this in mind, I stepped into the world of elderly care.
この拙著の英訳の過程は、一応30回(およそ1ヶ月)を目標にしてやってこようと思っていました。と言いますのは、一度に長々と日本語とその英訳を並べても、読んでくれる人はあまりいないのではないかと考えたからで、毎日少しずつ発表していくことにしたわけです。しかしずっと続けるわけにもいかないので、第1章が終わったら、本格的に翻訳作業を進めようと思います。なので、9月以降は、不定期的に途中経過だけ報告させてもらうことにしようと考えています。この1ヶ月近くの間にも、いろいろと話したいことがあったので、翻訳ばかりというわけにもいかなかったのですが、今後は、そのように考えていますので、どうかよろしくお願いいたします。もちろん、ご批判等がございましたら、ご指摘いただければ幸いです。