翻訳作業 後期第21日目

翻訳作業 後期第21日目

 

本日は、昨日の段落の続きになります。区切りのつけ方が難しかったので、昨日は冒頭の短い部分だけでしたが、本日はその続きです。高齢者介護の現場に存在しているいくつかの問題を、進化遺伝学的な観点から考察しようと試みています。私は以下のように記述しています。

 

例えば、これまで進化遺伝学的モデルを用いて、年老いた親を介護するという現象・行動の進化を考察してきました。そのモデルの核心にある仮定は、乳幼児期に築かれる親子間の強力な絆であり、繁殖を停止してしまった年老いた親を、将来莫大なコストを背負ってまでも介護してしまうくらいの強力な絆が、乳幼児期の高い生存率を保証しているという仮定です。このモデルが真である部分を含んでいるならば、年老いた親の介護という行動・現象は、親子間の強力な絆に大きく依拠するものとして発現されるということになります。この観点に立つならば、1990年代に、介護者による虐待や介護放棄を含む、高齢者介護における多くの悲劇をもたらしてきた伝統的な家族介護のシステムのありかたは、無理があったと言えるのかもしれません。すなわち、伝統的な家族介護を担ってきたのは、多くは息子の嫁といった義理の娘であったり、配偶者(妻)でした(Matsuda, 2009)。(本文 p. 127〜128)

 

家族介護と一括りにされることが多いですが、介護を担っている介護者が介護される側である高齢者とどのような血縁関係があるのかによって、意味はまったく異なることもあるのかもしれません。これも高齢者介護を進化遺伝学的な観点から考察してみてはじめて得られる洞察だと思いますが、もっと検討されてしかるべき観点だろうと思います。ということで、以下のような英訳にしました。

 

For example, I have employed evolutionary genetic models to explore the evolution of the phenomenon and behavior of caring for elderly parents. The underlying assumption of these models is based on the hypothesis that strong bonds between parents and offspring, established during infancy, ensure higher survival rates of infants and the young, and that these strong bonds persist even after parents cease reproduction. The enduring care for elderly parents, despite potential future costs, reflects the significance of the initial parent-offspring connection formed during infancy. If this model holds some truth, it follows that the behavior and phenomenon of caring for elderly parents would be expressed as ones that depend significantly on the strong bond between parents and offspring. From this perspective, it may be possible to assert that the traditional family care system, which led to numerous tragedies in elderly care during the 1990s, including instances of abuse and neglect by caregivers, was unreasonable. In other words, traditional family caregivers often lacked kinship with the elderly, including daughters-in-law, such as son's wives, or spouses (wives) (Matsuda, 2009). 

 

従来の家族介護では、高齢者の配偶者や息子の妻である義理の娘が、あたかも当然のように担ってきたという側面があったことは否定できないと思います。このことが多くの悲劇をもたらし、介護の社会化が待望されたという背景があるわけですが、この問題も、進化遺伝学的な観点から考察すれば、ある意味で当然予測されていた結果だったのかもしれません。少なくとも、高齢者夫婦同士の介護や、息子の嫁である義理の娘に年老いた親の介護を無条件で任せてしまうことの危険性は、進化遺伝学的な観点からは予測することができると思います。ここにも、高齢者介護を進化遺伝学的な観点から考察することの意義が、少なくとも一部にはあると思います。

三代