翻訳作業 後期第23日目
本日は、昨日と同じ段落の続きです。介護職員の離職の問題ですとか、介護職の求人に対してなかなか応募がないといった問題について、進化遺伝学の観点から考察しています。私は以下のように記述しています。
例えば、介護職員がすぐやめてしまう、あるいは求人を出してもなかなか職員が集まらない、といった現象はかなり前から介護の世界では問題になっていたと思いますが、介護という現象・行動が強力な親子間の絆に依拠しているとするならば、介護というセンシティブな仕事について、あまりにも無責任だった、あるいは楽観的だったと言えるのではないかと思うのです。つまりこれは、進化遺伝学的にみれば、あかの他人から利他的な行動を求めることになり、これは血縁者から利他的な行動を求めることよりも、もちろん条件次第でしょうが、ひょっとしたらずっと困難なことなのかもしれません。進化遺伝学的にみればずっと困難なことを、私たち日本人はあかの他人の介護職員に求めようとしていたのかもしれないのです。そう考えると、介護保険制度の見方も少し変わるのではないでしょうか。(本文 p. 128)
私たちは現在、介護保険の制度を使って、いわばサービスとして高齢者の介護を、ホームヘルパーなどのような介護職員に行ってもらっています。しかしこのことを進化遺伝学的な観点からよくよく考えてみると、結構困難なことを、赤の他人である介護職員にやってもらっていることになるのかもしれません。困難なことをやってもらうからには、それなりの環境や賃金を保証してしかるべきではないかと思います。ということで、以下のような英訳にしました。
For example, I believe that the issue of nursing care workers leaving their jobs too soon, or the challenge of attracting new staff despite job openings, has been a persistent problem in the field of elderly care. If the phenomenon and behavior of elderly care is dependent on the strong bonds between parents and offspring, then I think it could be argued that we had been either too irresponsible or too optimistic about the delicate work of nursing care. In other words, from an evolutionary genetic perspective, this entails seeking altruistic behavior from strangers, a task that is likely more challenging than soliciting such behavior from close relatives, although the difficulty varies depending on the conditions. We Japanese may have been attempting to request care workers, who are essentially strangers, to engage in tasks that are considerably more demanding from an evolutionary genetic standpoint. If we consider it from this perspective, our perception of the long-term care insurance system might shift slightly.
私が介護職員として働いていたときには、いわばサービス残業のような、タダ働きとしか言えないことが絶えずありました。なかなか定時では上がることができなかったですし、タイムカードを押した後も残って仕事をしていたことがしょっちゅうでした。自分の意思でならまだ納得もできることなのかもしれないのですが、これが職場の慣習となっていたことがあり、それだけに不満も少なからずあったと思います。これこそ報酬のない文字通りの利他的な行動と言えるでしょうし、それなりの報酬が得られなければ、そのような行動はいつまでも続けられるものではありません。介護職員の離職が多いのも、進化遺伝学的な観点から眺めてみれば、極めて妥当な現象なのかもしれません。当たり前のように介護職員に介護してもらっているように見えるのですが、その進化遺伝学的なバックグラウンドで考えてみると、赤の他人に利他的な行動を求めるというとても際どいことを、国家をあげて制度として行っているのかもしれません。 三代