翻訳作業 後期第36日目

翻訳作業 後期第36日目

 

本日から、第5章の最終節に入ります。これから訪れるであろう困難な社会的状況に対する危惧を表明しているのですが、私は以下のように記述しています。

 

自然選択を働かせる

近い将来に訪れるかもしれない危機的な状況を前にして、みんな本当に大丈夫なのかと心配しています。もし費用ばかりかかって介護が大変になってしまうならば、親の介護を放棄して、介護負担を減らせばいいではないかと思う人もいるかもしれませんが、それは人間の性質、自然本性として困難なことなのだということを、一連の進化遺伝学的モデルを用いてこれまで示してきたつもりです。このように人間の根源的な性質にも関わりうる大事な問題のはずなのですが、例えば介護職員の不足が叫ばれて久しいにもかかわらず、職員の不足が解消されているようには一向に見えないように、近い将来に対してみんなそれほど危機感を感じていないようにみえてしまいます。それだけに心配なのです。(本文 p. 134)

 

このホームページ上ではアップしてきませんでしたが、拙著の第2章から第4章までにおいて、進化遺伝学的なモデルを用いて、高齢者介護という行動、現象の進化について議論してきました。詳細については投稿論文や拙著を参照していただきたいのですが、私がなぜこのような研究を行なってきたかといえば、年老いた親を介護することはとても大変なことですが、大変だからといって放棄することは、人間の性質として簡単にできることではなく、それだからこそ、しっかりとその対策を考えていかなければならないのではないのか、ということなのだろうと思います。ということで、以下のように英訳しました。

 

Let natural selection act

Faced with a critical situation that may occur in the near future, I am worried about whether everyone is really okay. If the cost of elderly care becomes prohibitively high, some individuals might consider relinquishing the responsibility of caring for their parents to alleviate the financial burden. However, I intend to have demonstrated through a series of evolutionary genetic models that it is challenging for us to abandon elderly care because providing care for our parents is inherent to human nature. This should be an important issue related to the fundamental nature of human beings. However, for example, despite the long-standing concern over the shortage of nursing care staff, there has been no apparent resolution to this issue. It seems like everyone does not feel that much of a sense of crisis about the near future. That is why I am concerned.

 

無力な状態で誕生してくる乳幼児期や幼少期における生存率の上昇が、今日の人類の繁栄をもたらしてきた一つの要因として、とても大きな役割を果たしてきたことに異議を唱える方はそれほど多くはないと思いますが、その乳幼児期や幼少期の高い生存率を保証してきたのは、高齢になってしまった親を将来見捨てることなく、大変な苦労をしてまでも介護してしまうくらいの強力な親子間の絆を反映したものであるというのが、進化遺伝学的なモデルを用いて示してきた私の主張です。逆にいえば、年老いた親を簡単に見捨てることができてしまうのであれば、人類のこれだけの繁栄はなかったと言えると思います。ですから、年老いた親を介護するという人間の性質は、人間を特徴付ける自然本性にも関わるとても大切な性質なのであり、それだからこそ将来訪れるであろう困難な状況に対して、その対策を私たちはしっかりと考えて準備していかなければならないのではないのかと思います。もちろん、こんな単純な話なのではなく、異論や反論はあることは承知していますが、それらの間で議論を戦わせることが大切なのではないかと思います。「自然選択を働かせる」というのは、いろいろなアイデアをみんなで出し合って、それらからさらに良いアイデアを導き出していくプロセスを表現したくて用いました。  三代