翻訳作業 後期第43日目
本日は、先の段落に進みます。"社会調査セミナー”は、当時一般教養課程で行われていた授業の中では、とりわけ過酷な教科として、学生たちの間では一目置かれていたと思います。もっと簡単に単位を取れる授業はいくらでもあったと思います。河西先生にご指導をいただきながら、自分が興味を持った社会的問題や現象を自分の足で歩き回りながら調べてレポートにしていくという、卒研や大学院での研究にも匹敵するような課程だったと思います。その当時のセミナーの中で発表されたレポートのいくつかが一冊の本として出版されているのですが、そのことについて私は以下のように本文の中で記述しています(本文 p. 138〜139)。
“社会調査セミナー”において、先輩方や同期のクラスメートたちが書いたレポートが一冊の本になって出版されています(河西,1991)。あれから30年経った今、当時クラスメイトだった人たちや、お世話になった先輩方の懐かしい名前を目にしながら、あらためてこの本のページをめくってみると、河西先生は最後のページで以下のようにおっしゃられていました。
次代の研究者を育てることが満たされない夢で終わるとすれば,教養部の教官としては、せめて、高校を卒業したばかりで清新の気運に燃え、日本の大学の怠惰な気風にまだ染まっていない1・2年生にたいして、日本社会を実証的に研究することのおもしろさ、そして、自分の目・耳・体を通して事実を把握し、分析していく実証主義的精神を身につけることの大切さを教え込もう、私はいつしか、そこに教師としての使命感と喜びとを見出そうと、自らを鞭打つようになってきた。ましてや、われわれが生きている今という時代は、かつて経験したことがない諸現象が日々生起する、羅針盤のない時代である。近い将来でさえ,それがいかなる時代となるのか、いかなる生き方がそこで展開されるようになるのか、この問いにたいする道標さえ見出すことができないのである。だからこそ、現実のなかを這い回り、そこから、自分自身の地図を描き出すしか道はないのであり、そのためにも、実証主義の精神が求められるのである。(河西, 1991, p.488)
河西先生の御著書から直接引用しているので、英訳する際には、河西先生ご本人から確認を取らなければならないのですが、河西先生からご批判を頂けないのはとても残念に思います。ただ、この河西先生の文章に対する英訳は、私の責任で行なったことなので、ご批判等がございましたら、ぜひご教示いただければと思います。よろしくお願いいたします。ということで、以下のように英訳いたしました。
The reports presented by senior students and fellow classmates during the “Social Research Seminar” were published as a book (Kawanishi, 1991). Thirty years have passed since then, and as I turn the pages of this book again, looking at the nostalgic names of my classmates and seniors who supported me, I come across the following words from Professor Kawanishi on the last page:
If nurturing the next generation of researchers turns out to be an unfulfilled dream, as a faculty member in a general education course at a university, I am determined to at least instill in 1st and 2nd-year students, who have just graduated from high school, are full of fresh energy, and are not yet tainted by the lazy ethos of Japanese universities, the fun of empirically investigating the Japanese society and the importance of acquiring a positivist spirit of grasping and analyzing facts through one's own eyes, ears, and body. Before I knew it, I began to push myself to find within it a sense of mission and joy in being a teacher. Moreover, we live in an age without a compass, where unprecedented phenomena occur every day. Even in the near future, we cannot even find a guidepost to answer these questions, such as what kind of era it will be or what way of life will develop there. That is why the only way is to crawl through reality and draw our own map from there. For that purpose, the spirit of positivism is required. (Kawanishi, 1991, p.488; originally in Japanese and translated by myself)
私は、高校を中退し、当時大検と言われていた大学入学資格検定試験に合格してから大学に入学してきました。当時高校の中途退学者が結構な数に達していたため、高校中退は社会問題と言われるくらい大きな問題となっていました。”社会調査セミナー”では、この時の体験をもとに、高校中退と大学入学資格検定試験という制度について、高校中退者の立場からレポートを書くことにしました。今でもそうだろうと思いますが、高校を中退してしまうなど、当時の私は、基本的に人と関わり合うことが苦手だったのだろうと思います。それでも自分に鞭を打って、高校を中退した人たちのための大検準備予備校に、レポート作成のための資料を集めるためにインタビューに伺ったことを覚えています。予備校の講師の方にインタビューをさせていただいたのですが、私が準備不足だったこともあり、あまり話が続かず、こちらが聞きたいこともろくに聞き出すことができなくて、なんだかものすごい挫折感だけが残った記憶があります。それでも、高校時代のクラスメイトから、私が退学した高校のことについて、いろいろと話を聞いたりしてレポートをまとめたのですが、気持ちばかりが空回りしてしまって、自分としては不本意なレポートとなってしまいました。私が通っていた大学は、よく言えば自由だったと思いますが、基本的に大学の教授陣も学生に対してあまり期待しておらず、とてもサラッとした雰囲気がありました。ですから、今から思えば、大学に入学したてホヤホヤの学生に対して、夢中になって打ち込めるテーマを与えてくださろうとご尽力されていた河西先生は、やはり当時でさえも際立った存在だったと思います。 三代